まろやか&ダークネス編


-奈落の底の鎮魂記-
第一章〜愛ゆる話〜
第五話・捕らわれし者A

「さぁ、さぁ、きたよ。ここまできたよ!ハグに手つなぎ、キスとくれば、残りはラヴリ〜道一直線だ!」
「…えー、素朴な疑問なんですが。ここってエロいの禁止じゃなかったんですか?」
「HAHAHA!何言ってんの。一庶民の恋愛体験の告白だぞ。そんなことをいったら昼のメロドラマもエロかっつーの。」
「…そんなエロ親父みたいな目をして言っても説得力ありませんよ。」
「だって、興奮するじゃな〜い。」
「…う〜ん。多分、マリンさんが想像するような話にならないと思いますけど。」
「HAHAHA、子供だねぇ〜そんなねっとりした話、自分の子供に話すわけないでしょー」
「いえ、そういうことじゃなくて…」
「聞き出すよ〜私は〜実の子供が聞けないような話を〜」
「…はぁ、もういいです。」
「…そろそろ、良いですか?」
「おう!心の準備は出来ているぜ、イッツァマザー!聞かせておくれよ愛の日々!」
「…私が、彼とお付き合いを始めて…これは私が彼に対して好意を抱いていると分かってからですが…一年半後、私は「君の全てが欲しい」と彼に呼ばれて家へと向いました。」
「ちょっと、待ったマザー!!!」
「何ですか?」
「一年と半年をはしょりすぎ!私としては濃厚な恋人期間を知りたいわけなのよ。」
「そういわれても、特にかわったことはありませんよ?一緒に手を繋ぎ、図書館へと赴き、時にはふれ合う…」
「そこ!」
「…?」
「体のふれあい!肉体のコミュニケーションを聞きたいの!」
「…マリンさん。もう少し、品性を磨いたほうが良いと思うよ。」
「うるしゃぁ、このオボコ!恋愛なぞ、つまる所そこに行き着くのだ!」
「げーひん!げーひん!」
「生娘はほおっておいて…ささ、ほーりーあっぷ!」
「…すいません。言っている意味が、わかりかねるのですが。」
「だから、恋愛のABCを聞きたいっていうの!特にC辺りとか。」
「そんな例えで聞いたって無理ですよ。ママって、そういうのに興味ないんですから。」
「親子そろってタンパクだなぁ。Aはキス、Bはハグで、Cはそれ以上!愛と情熱の神エロスのことなのだ!」
「タンパクじゃありませんよ。マリンさんが、エロいだけです。それに何ですか、そのまんまエロスって…魔女なら、悪魔との契約を例えにしたらどうですか?」
「ほっとけ!」
「エロス?…ああ、婚前交渉のことですか。それなら、特に話すことはありません。」
「え〜いいじゃん、教えてよ〜」
「教えるも何も、彼とは一年半の交際期間中は何もしてませんでしたから。」
「…え?恋人どうしならしちゃうもんでしょ?」
「なぜですか?結婚もしていないのに、行為を行う必要性が認められませんが。」
「いや、いや、恋人どうしなら、こうパーと盛り上がって…ねぇ?そうでしょ生娘?」
「僕に振られたって分かりませんよ。したことないですもん。」
「…それで、盛り上がって子供が出来てしまったら、どうするんですか?」
「…へっ?できたらって…そりゃ…まぁ…」
「子供が出来た時の準備もせず、一時の熱情にかられて、そのような行為をされるのは愚劣としか思えませんが?」
「え〜確かにそうなんですけど…」
「子供が出来た場合に備えて、近くの産婦人科を調べておく必要もありますし。出産費用、それに生まれた場合の養育費も考えなければなりません。それに恋人同士ということは、両親に結婚の報告をしにいく必要もありますね。」
「…ふ、普通はそこまで考えないと思うけど。」
「考えて下さい。一生の問題ですよ?それとも恋人同士とは、将来のことなど考えず、ただ目先の情熱に浸りたいためにフシダラな関係になる事を言うのですか?」
「で、でで、でも…何でも理屈で考えすぎじゃないかなぁ〜」
「おしゃる意味が理解できませんが?それより皆さんが何も考えず行為に及ぶ方が納得できません。」
「う、う〜ん。」
「私は、何も考えず行為に及ぶのは生命に対する冒涜としか思えません。」
「…ぼ、冒涜っ?」
「子供が出来た時のことを考えないと言うのは、極論すれば「堕胎すれば良い」という考えが前提にあるからでは無いでしょうか?」
「…そんなことは…無いと思うよ…たぶん。」
「…ならばなんで気軽に行為を行うことができるのですか?新たな命を宿す…それは生命の誕生であり、一人の人生がページが開かれる瞬間なんですよ?その重みが分かっていれば、安易にそのような行いはできないはずです。」
「…そうだけど、それを回避するための道具っちゅーもんが。」
「ふぅ…つまり、人間を生み出す神聖な行為を、安易な快楽に浸るための行動にしたいと?で、その道具が役にたたなかった場合は?」
「…へ?」
「論点がずれていますが?子供が出来た場合を私は話しているんです。その道具が、何らかの不具合によって壊れたり破損したとき、責任を負うのは、誰でもない女性の貴方なのですよ?」
「…う、う〜ん。」
「子供が出来た時は、堕胎すればよい。…そうお考えなら、私はもう話すことはありません。個人的に絶対に許せないですが、人の信条を侵すつもりはありませんから。どうぞ、ご自由に。しかし…」
「子を宿すのは女性であり、その子の命を自分の胎内で絶つのも女性の役目です。最終的な責任は全て女性にかかっているんです。後悔なされないように気をつけて下さい…」
「…うう、この人、固いし、怖いし、説教するし、何か嫌だよ。」
「そりゃ、そうですよ。神官一族ですもん。聖職者に性の柔らかさを求めても無駄ですって。」
「で、でも、彼のことが好きだったんだよね?」
「もちろんです。ですが、勘違いしないで下さい。私は彼のパーソナリティー…彼という個人を好きになったのであって、彼が男だから好きになったわけではありません。」
「むう〜」
「マリンさんは男ならOKってかんじだもんね。」
「ひ、人をアバズレのように言うなぁ!」
「おかえし!おかえし!」
「そういうわけですので、私と彼は、恋人であった時は、そのような行為を行ったことはなく、教えられることも何も無いと、申し上げたんです。」
「でも、彼氏さんは我慢できたの?」
「前にも言いましたが、付き合い自体は長かったので、私の考えを彼もよく理解してくれました…もちろん、多少の妥協はしましたが。それでも最後の一線までは越えることはありませんでしたよ。」
「う、う〜ん。多少の妥協ですか…」
「それに彼には常々、因果を含めていましたし。」
「…因果って、なにそれ?」
「…あまり人に言う事でもないのですが…子供をつくるときは、少なくとも、卒業し、社会に出て、生活基盤を確保し、その上で子供を育てられる余裕が出てきてから、行いましょう…と彼に伝えていたんです。」
「な、何て気の長い話…それまで彼氏さんはオアヅケですか?別れるとか言われなかったの?」
「その程度のことで別れると言うのなら、こちらからお付き合いを、お断りします。…単なる体目的で、近づいてきたということですから。」
「…あれ?…これってノロケられていんの?」
「そうだよ!ママ必殺の、遠まわしノロケ!」
「…やっぱり!」
「…本当に好きであるなら、何年でも待ってくれる…と言いたかったダケです。」
「…否定はしないんだよね(ニヤニヤ
「…くそぉ、ここまでの話が、自分がノロケるための前フリだなんて…恐るべしママさん!」
「…ふぅ。もう良いです。ですから、彼が付き合ってから一年半後、「君の全てが欲しい」と彼に呼ばれて家へと向いましたが…」
「…ああ、一番最初の台詞に戻るんだね。」
「…正直、不安で仕方ありませんでした。」
「…なんで?」
「…彼の求めに…心でしか受け止められない以上、彼はきっとプロポーズしてくると思ったからです。」
「良いじゃん。それで何が不安だったの?」
「…まだ、大学を卒業もしてませんでしたし、社会にも出てなかったのですよ?このような状況でプロポーズを受入れられるわけがありません…ですが拒否することも…絶対にできません。」
「贅沢な悩みをいってらぁ。」
「…ですから、私は卒業まで保留という形で、何とか決着を計りたかったんです。ですが…」
「はい、はい、彼の熱意に押されちゃったんでしょ?もう、聞かなくても見当がつくよ。」
「…10月15日、私は彼の家に訪れました。今は、まだ…結婚できないことを伝える為に…」

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