まろやか&ダークネス編


-奈落の底の鎮魂記-
第ニ章〜恋なる話〜
第九話・災いなす者A

「それで高校時代は特に何にも無かったのは分かったけど、なんで同じ大学に入ることになったの?」
「偶然だね。私達は地元の大学へ行くことになったけれど、そもそも彼女は中央の大学へ行くだろうと誰もが考えていた。」
「中央っつーと、いわゆる一流大学ってヤツですか。」
「成績は優秀だし、素行は二重丸で、運動神経も悪くなかった。推薦だけでも、そうとう良い大学へ行けると皆が思っていた。だが、意外にも彼女が選んだのは、地元の普通の大学だった。」
「なんでだろう?」
「神事!神事!言ったじゃないですか、当時はママにしか出来ない神事があったんです。」
「そうなの?」
「らしいね。私は良くは分からなかったけど、家の都合で遠くには行けなかったのは確からしい。」
「身分や環境に縛られていたってことかな。」
「そういう感じは受けなかったかな?そもそも彼女には大学に対するこだわりというのも無かったようだ。前に聞いたときは「古史を習えれば、どこでも良かった」みたいな話を聞いたことがあるしね。」
「唯々諾々と従っていたの?ふ〜ん。ママさんって、もっと行動力というか自立心のある人だと思ったけど。」
「自立心や行動力があるのは間違いないけど、それとは別に、そういう規律を守ることを…楽しんでいたふしがあるよ。」
「楽しんでいた?規律を守ることを?変なの〜」
「彼女が口に出して言ったわけではないけど、そういう雰囲気はあったよ。ルールがあり、その中でいかに活動するか。というのが性にあっているんだろうね。」
「言い方は悪いけど、ママってそういう枠の中に入るのが好きなんだよね。だから枠を破るのが絶対に許せないんだと思う。」
「ふむ。型破りなマリンちゃんとしては、何が楽しいのか良く分からないよ。」
「…でも、だからこそ、ママはパパに愛情で、がんじがらめに縛られた「小さい枠」に入られても、愛し続けられることができたんじゃないかな…と僕は思うんだ。」
「………」
「むぅ〜、がんじがらめはともかく、確かに恋人が出来たら、ある程度は相手の枠に合わせなきゃならないよね。」
「面倒くさがってちゃ、恋人できないよマリンさん。ママほどじゃなくても相手の枠にハマるようにしないと。」
「分かってるよ!私はラブリィ・ソルジャーだぞ!それよりパパさん次!次!」
「…ああ、まぁ、それで、偶然同じ学び舎に入ることになったわけだけど、それでも最初の数ヶ月は、簡単な挨拶以外、あまり話はしなかったね。」
「で、で、いつから気になる存在へと成長しちゃったの?ママさんはパパさんが告白してからと言っておられますが。」
「…あれは、入学して三ヶ月ぐらいかな。校内のカフェテリアで本を読んでいたとき、彼女が怒気をはらんで私の向い側の席についたんだ。」

大学時代
「軽薄!無責任!恥知らず!どうして男達というのは、あれほど下劣なんでしょうか!?」
「どうしたんだ。いきり立って?まぁ、水でも飲んで落ち着け。」
「どうしたも、こうしたも…あ、ありがとうございます。あのナンパ達ときたら…」
「ナンパされたのか?」
「ええ、高級車の窓を下げて装飾品と財力をひけらかした挙句、自分の身体能力を誇示し、今まで自分がどれほどの女性を「満足」させてきたかを、うすら寒い笑顔を貼り付けて、雄弁に語られてきました。」
「そりゃまた(ハデに嫌ったもんだな)…で、なんと答えたんだ?」
「サーフィンが得意なのは結構なことですが、本を読むのが好きな私とは何も接点が無い様ですね。と丁寧にお断りしたのですが…」
「おいおい(無茶苦茶ケンカ腰だな)」
「「まぁ、君みたいな体も心も子供には、大人の付き合いなんて無理だったかもね」と言い放ったんです!」
「ははぁ…子供と言われたか。」
「全く、なんなんですか!彼らは女性を何だと思っているんですか!さわやかに、後腐れなく、行為を行うことが大人だと?バカバカしい!」
「………(君がケンカ腰だったのがいけないんじゃないか?とは言わないでおこう)」
「男女の関係とは、もっとより良いものだとは思いませんか?」
「そうだな…もし、俺だったら…」
「…え?」
「好きな人が幸せになるように、努力するけどな。」
「………」
「…あれ?今、おかしな事を言った?論点がずれてる?」
「…あ、いえ、そういうわけでは無く。」
「ああ、そうか。別に返事が必要な話じゃなかったんだ。ダメだな俺は。空気が読めなくて。」
「そ、そんなことはありませんよ。ただ、ちょっと驚いただけですから。」
「そう?(驚いた…ねぇ…)」
「でも…そうですよね。」
「ん?」
「共に幸せをつかんでこそ、その努力をしてこそ、男女の営みですよね。」
「ん〜俺が言ったのは、ちょっと違うんだ。」
「え?どういうことですか?」
「俺はどうなってもいいんだ。だけど俺が好きになった人達には幸せになって欲しい。そういうこと。」
「………」
「…どうした?」
「…随分、悲しいことを言われるんですね。」
「…え?(やばい、何か気に障ったのか?)
いや、ちがう、ちがう。そうじゃないんだ。ただこう思うんだよ。」
「………」
「俺がその人を好きになっても幸せになって欲しいと思っても、相手に対して自分の事を好きになったり、幸せになって欲しいって願うのはおかしなことだろ?その人にはその人の考えがあるんだし。」
「………」
「………」
「………」
「…え〜と、何か言ってくれないかな?」
「諦めていませんか?」
「…はい?」
「自分は好意を持たれる事は無いと、自分は好かれることは無いと…考えていませんか?」
「(そんなに深いことを言ったつもりは無いんだけど)
えーと、まぁ、そんなに自信満々なわけじゃないのは確かだけどね。」
「…私は貴方のことが好きですよ?」
「え?」
「貴方には幸せになって欲しいと思うし、それを願っています。」
「あ、あぁ…ありがとう。」
「だから、あまり悲しいことを言わないで下さい。」
「そうだな。善処しましょう。」
「…でも。」
「?」
「貴方が、そんな認識を持っているなんて意外でした。」
「そんなに意外なことを、俺言った?」
「ハイ。
自分は不幸になっても良い。でも自分の好きな人達には幸せになって欲しい。…そんなことを言う人だとは思いませんでした。」
「(あれ?微妙にニュアンスが変ってないか?)」
「…自分よりも他の人を気遣うなんて、優しい人なんですね。ちょっぴり、見直しちゃいました。」
「…いままで、どういう風に思っていたんだ?」
「そうですね。ワイセツ小説に青春をかける問題児。」
「なんじゃそりゃ?」
「あら、忘れたとは言わせませんよ?高校の頃にワイセツ小説を持ち込んで、大問題になってことを。」
「あれは、君が取り上げなければ問題にならなかったんじゃないか!…と言うのはダメ?」
「ダメです。持ち込むほうが悪いに決まっています。」
「そっか。そう思われていたのか。…まぁ間違いじゃないから反論もしないけどね。」
「そうですよ。でも、ここにいると貴方がマトモに見えてくるから不思議です。」
「それ、褒めてるの?」
「もちろんです。貴方は自分の妄想を本で解消してますが、世の中には自分の欲望を現実に解消しようと行動を起こす人がいます。相手の方と…そして自分自身に害があるのも理解しようともせずに…」
「人の生き方は、それぞれだよ。それで良いという人がいるんなら、とやかく言う必要は無いさ。」
「…ですが。」
「こら超合金!そんな世の中の秩序を一身に背負い込んだようなような顔をするな。肩の力をぬいて、自分が今出来る範囲のことを考えないと、いつか爆発しちまうぞ?」
「…あ、はい。」
「………」
「………」
「…どうしたんだ。キョトンとして?」
「…今日は驚くようなことばかりです。貴方に諭されるだなんて。」
「おいおい」
「長く付き合っているつもりでも、案外知らない面って多いんですね。何だか、とっても新鮮な気分です。」
「まぁ、つきあっている。つーても、別に話し込んだりするような間柄じゃ無かったからな。」
「では…今日は新しい出会いの日にしませんか?」
「新しい出会い?…面白いことを言うな。」
「ふふ、今とっても気分が良くて…なんだか、新しい友人を得たような気分なんです。」
「(い…いままでの俺の存在って…)」
「さぁ、乾杯しましょう。水しかありませんけど。」
「ああ、カンパーイ!」
「乾杯!…所で」
「ん?」
「超合金って何ですか?」

「それから私達は意気投合して、良く付き合うようになった。元々、私達は本が好きだという共通点があったから、その話題で盛り上がり、しばらくすると共に本を探して出かけるようになった。」
「本を探しにって…男女二人で?」
「ああ、彼女は一緒にいても大丈夫だと…私を信頼してくれたんだ。」
「ま、本当は信頼できる人じゃなかったんだけどね!」
「…そうだな。そうだとも。」
「マリンさん。心臓をナイフでえぐるようなことを言うのは止めてよ。パパは自業自得だけど、聞いている僕までえぐられる気分になるよ!」
「ごめんよぉ」
「話を続けるよ。それから二人で外出するようになったんだが…」
「あ、ちょっと質問。パパさんと、ママさんって、どんな本を買っていたの?」
「え?」
「なんか、パパさんとママさんの好きな本って違いそうだから、何を買っていたのかなぁ〜って思ったの。」
「そうだね。ママ…ごほん。カミュは主に古文や、歴史、文学、あと宗教関係の本を買っていたかな?変った本といえば、思想の本とかも買っていたけれど、購入するわりには、あまり興味はなさそうだった。」
「パパさんは?」
「軍記小説だね。中世時代のものから大戦のものなんか…かな?ドキュメンタリーやノンフィクションも読むけれど、私の場合は小説が圧倒的に多かったよ。」
「圧倒的に多いのはエロ本じゃないの?」
「…おい、コラ。」
「うむ。あえて否定はしない。」
「ちょ…否定しないとダメだよパパ!」
「やっぱり!」
「納得するな!」
「でも、男の人からエロいのを抜かせば何も残らないぞ生娘!」
「しかり。」
「な、なに?このコンビネーション!?実の娘として、ちょっとジェラシーだよ!」
「いや、つっこむところはそこじゃないでしょ…」
「五月蝿い!僕としてはパパが他人と意気投合した方が重要なんだい!」
「マザコンの上に、ファザコンかよ…どんだけ親離れできん子なんだ。」
「ほっといてよ!」
「しかし、あれだね。こうして聞いてみると知能の差ってのが分かるよね。」
「言っている意味が分からないけど…思想書を読むのが高尚な人物で、小説を読むのが低劣な人間と言いたいのなら、いつの間にか僕の手に握られていた鈍器で頭をカチ割るよ?」
「小説を読む人間が低劣なんて露ほどにも思ってないよ。ただ、ママさんのチョイスの方が、頭が良さそうに見えるって話さ。」
「…う〜ん。でも、何か嫌な感じだよ。その言い方。」
「まぁ、まぁ、実際、カミュの方が、私なんかよりも遥かに知能も思考も上だからね。その点は、否定しないよ。」
「…それって、ノロケでしょ?」
「いや、事実さ。私が必死になって入った大学も、彼女にとっては入学も朝飯前だったしね。正直、へこみ過ぎてへこまなくなったぐらいだ。」
「ふ〜ん。」
「…でも、あれかな?」
「なに?」
「ノロケ…かもしれないね。ふふ。」
「もうパパったら!…このママ好き!ひゅーひゅー」
「けっ!一家の主が嫁さんより劣るなんて公言するんなんてな!アンタには羞恥心ってのが無いのか!」
「無いね。」
「お、おのれ、あっさりと!」
「それに一家の主というのなら、社長のママを指す言葉だろうしね。いわば私はミソッカスって所かな?」
「しかも開きなおりやがった!」
「当たり前じゃないですか。そうでなくちゃ、ママにあんだけ酷いことして、ノウノウと夫をやれるもんじゃないよ。」
「…ごめん操。それはちょっと痛恨の一撃だったよ。」
「こういう時って、身内の方がヒドイ言葉を投げたりするんだよね…」
「…はう。パパごめん。操は言い過ぎました。」
「うむ。許す!あやまる子は許す!」
「パパ〜(ひし」
「みさお〜(ひし」
「…なに、この馬鹿親子?」
「親子の絆!」
「…はい、はい。で、それから二人は、どうなったの?まだ告白してないよね?」
「ああ。それから二人でちょくちょく外出して…二ヶ月ぐらいした頃かな。ある日、遠出から戻ってくる最中の列車の中で、私達は…」

「一日中街を歩いたから、今日は疲れたな。」
「ええ、でもおかげで欲しかった本を手にすることができました…ふふ。」
「良かったなぁ〜」
「でも、私のために、結局貴方は何もできませんでしたね。ご免なさい。」
「良いって、気にすんなよ。」
「そういうわけにはいきません!今回は私のワガママに付き合って頂いたのですから、来週は貴方の希望地に行きましょう。」
「気にしなくてもいいんだけどな。ま、そういうなら、ありがたく受取ろう。」
「そうですよ。人の好意は素直に受けとるものです。」
「…変った所でもいいかな?東部へ行きたいんだけど。」
「構いませんよ。無駄足をさせてしまったのですから、それぐらいは許容します。」
「…俺は無駄足だとは思ってないよ。」
「え?」
「カミュ…さ、その本を手に入れたときに幸せそうな顔してたろ?」
「………」
「その顔をみていたら俺も嬉しくなってさ。今日は来てよかったと思ったよ。」
「…私が幸せそうな顔を?」
「ああ、十年来の親友に出会えた。そんな感じ。良い顔してた。」
「…不覚でした。そんな顔を見せてしまうとは。」
「普段、あんまり感情を表に出さないから、結構驚いた。」
「…そうですか…しかし…」
「ん?なんだ。」
「相手が貴方で良かった。他の人が見ていたら変に思われたでしょうし。」
「そうかな?」
「そうですよ。感情を表に出すなんて、大人になれない人です。今回は貴方と一緒にいる安心感から、出てしまったのでしょうけれど。」
「俺と一緒にいると安心する?」
「愚問です。安心できない人と散策するほど、私は自信家ではありません。」
「え…と、それって褒められているの?」
「そうですよ?」
「…ならいいや。眠くなってきたし。」
「私も。今日は一杯歩きましたからね。」
「今日という日は、我が青春の1ページに永遠に記録されるであろう!なんてな。」
「…ふふ。」
「今の、そんなに面白かった?」
「いえ、私の幸せに同調されるなんて感受性がお強いんですね。」
「それって子供っぽいってことか?」
「そうじゃありません。人の気持ちを我が身に置き換えて考えられるなんて…優しい人だな…と、思っただけです。」
「そうかな。ろくなもんじゃないと思うけどね。」
「…どうしてですか?」
「人の気持ちが分からないほうが良いに決まっている。その方が自由に生きられるし、何より好き勝手にできるじゃないか。」
「…本気で言っているんですか?」
「…人の気持ちが分かるから、自分が被害者になっても加害者になっても相手を追い詰められない。相手を憎んでも、相手の気持ちを考えてしまうから憎みきれない。」
「………」
「…他人の痛みが分かる人間になろう。何ていうが、実社会では逆に、相手の事を考えずに蹴り落とした方が勝者だろう。無慈悲に冷酷に、さ。でも…」
「………」
「………」
「…良かった。」
「…は?何が。」
「…貴方を軽蔑せずにすみました。単に刹那的になっていただけですね。」
「刹那的って…簡単にいうなよ。わりと真剣に話したつもりだぞ。」
「なら、破滅的思考法にからまっています。その考え方は危うく、自壊に至る道だと断言できます。」
「…お前、心理学専攻だっけ?」
「茶化さないで聞いて。貴方は優しい人です。今は辛いかもしれませんが、いつかきっと幸せになります。」
「………」
「だから刹那的にならず、じっくりと、ゆっくりと、腰をおちつけて構えて下さい。」
「俺が幸せに?何でそう思うんだ。」
「だって貴方は、私の微笑みだけで動いてくれたでしょ?そんな良い人が幸せになれないハズがありません。」
「なんじゃそりゃ?俺が良い人であることと、幸せになることとの間に因果関係が無いぞ。」
「そうでしょうか?」
「第一、良い人なんてのは、恋人にしたくないNO1じゃないか。あまりヘコむようなことは言わないでくれよ。」
「…それ、おかしいです。」
「なにが?」
「おかしいです!良い人は、良い人なんです。なぜ忌避されるのですか!」
「いや、俺に言われても…多分、刺激が無いとか…」
「下らない!そんな人間は、勝手に奈落へと落ちればいいんです!」
「おい、落ち着けよ。」
「…良い人は幸せになるべきです。そうは思いませんか?」
「いや、そうだろうけどさ。現実なんて、違うもんだよ。」
「そうかもしれませんが…」
「そもそも、カミュは俺の事を良い人だと決め付けているけどさ…」
「?」
「俺だって、一緒に探してもらいたいっていう下心があって行動しているわけだし。前提からして間違っているよ。」
「…なるほど。」
「?」
「…良い人っていうのは、わざと悪ぶるって本当ですね。」
「なっ…何を言ってるんだ!」
「…ふふ、ご免なさい。」
「全く、からかうのもほどほどにしてくれ。」
「…でも、もう少し…ポジティブに、前向きになりませんか?」
「最近は成績もふるわないしな…それに、彼女もいないし…どう前向きになれっていうんだ?」
「…そうですね…成績は鼓舞することしかできませんが…恋人さんは、いつか絶対にできると思いますよ。」
「なぐさめでも、嬉しいね。本当。」
「やさぐれないで、下さい。私が保証します。だから、諦めないで下さい。」
「そういってくれるのは、カミュだけさ。あ〜あ、たまには女の子と二人っきりでデートをしたいもん…」
「…?」
「………」
「どうしました?人の顔をじっと見つめるのは、あまりマナーが良いとは…」
「…もしかして…これってデートなのか?」
「…え?」
「俺達って、デートしてる?」
「………」
「………」
「…ちょっ、藪から棒に何を言っているんですか!?」
「…あ、いや。男女二人で買物をしに言っているし…デートかな、と。」
「そ、そんな…混乱させるようなことを言わないでください!」
「…そ、そうだよな。カミュが、俺のことを好きなわけがなよな。」
「え?え?す、好きですよ。あ、いえ、そういう意味では無く、つまり、嫌いじゃないと言う意味の正反対の言葉として…」
「お、おちつけ、おちつくんだ。これは、つまり、こういうことなんだ。俺達はお互い好きで買物をしに出かけている。」
「それではデートじゃないですか!」
「え?じゃあ、間違っている!?どの辺りが?」
「そんなの…分かりません!知りません!と、とにかくデートではありません!」
「………」
「それは、貴方のことを信頼してますし、好きですし、一緒にいると、楽しいですけれど…」
「…え?そんなに想っていてくれたの!?」
「…あっ」
「も…もしかして、デートだと思ってなかったのは俺だけ?」
「ち、ち、ち…違います!誤解です!これは貴方に対する、私の個人的な見解であって、私達二人の行動に対する論理的な説明では…ああ、何を言っているんだろう私。」
「とにかく…落ち着こう。」
「…ええ、そ、そうですね。」
「(ドキドキ)」
「(ドキドキドキ)」
「あ、あの…」
「ああ!もう!貴方のせいで心臓の鼓動が止まりません!どうしてくれるんですか!」
「ご、ごめん。どうしようか。とりあえず、ちょっと胸に手をあててみようか?」
「え?」
「本当だ。凄いドキドキしている。」
「なっ、わ、私の胸に手を…」
「しっ!静かに…」
「あ…は、はい。」
「…ゆっくり息をすって…はいて…」
「…はい。」
「………」
「………」
「…少しは落ち着いたかな?」
「…分かりませんが…まだ…ドキドキします。」
「…しばらく、こうしていれば 落ち着くと思うから。」
「………」
「………」
「手が…」
「…なに?」
「…温かいですね。」
「…そう?」
「…なんだろう。とても安心する。」
「………」
「………」
「…もう、おちついたかな?」
「…すーすー」
「…って寝てるのか?」
「…すーすー」
「…可愛い寝顔して。キスしちまうぞ。」
「…ん…んん。」
「…!」
「…すーすー」
「…お、驚いた。ダメだ。ダメだ。殺される。さっさと手をどけて…」
「…んっ」
「…いつのまに手を掴んだんだ?…しかも、凄い力だ…離しやしない。」
「ん…」
「…お、おい。体を預けてくるなんて反則だぞ…勘弁してくれ。」
「…すーすー」
「…女の子の体がすぐ側にあるのに、何もできないんて。これが蛇の生殺しってヤツなのか!」
「…すーすー」
「…空しい。何をやってんだろう。俺は。」

「この時、私は彼女の体温を服越しに感じつつ、自分の理性をフル稼働させて彼女に対する熱い想いを推し留めていた。」
「熱い想いじゃなくて。エロい想いでしょ?」
「熱いパトスだから問題無し。」
「なるほど!」
「…二人の会話は、サッパリ分からないよ!(イジイジ」
「それから駅について彼女を起こすと、自分が私に寄りかかっていたのに気がついて、ひどく赤面していたよ。」
「そうですか。しかし、何ですな。体を預けられて、ナニがナニでしたでしょうな。」
「その目は何だい?」
「いや〜どんだけ、エロい想いを内蔵していたか、とても興味がある年頃なんですよ。」
「熱いパトスの中身かい?まぁ、大したもんじゃないよ。」
「でも、ママの体をギュっとしたくなったでしょ?」
「まぁ…ね。」
「そのまま押し倒したくなったんでしょ。」
「か、考えないことも無かったけどね。」
「結婚したいと思ったでしょ?」
「そこまでは、まだ思わなかったかな?」
「ぶっちゃけ、孕ませたいと思っただろ!」
「…怒るよ本当。」
「げーひん!げーひん!」
「…うう、仲良し親子め!」
「…その日は帰ってから彼女のことしか考えられなくてね。次の日…彼女が来るまで悶々としていたのは確かだよ。」
「エロいこと考えてた?」
「正直、考えていた。」
「えー、この人サイテー!」
「一体、君は私にどんな答えを求めているんだ?」
「そんなこと、乙女に聞かないの!」
「パパ、この人はダメ人間だから聞くだけ無駄だよ。」
「え〜!だって聞きたいやん、エロい話。アンタだって年頃の娘さんなんだから、聞きたくないとは言わせないぞ!」
「いいですよ。聞く、というか見ましたし。」
「…え!」
「!?」
「パパとママが夜中に…もうね、ああいう場面を見るとダメですね。本当、凄いショックを受けちゃって…」
「み、見たって?どのくらいのレベル!?」
「…ABCで言えば…Dレベルかな。」
「それって完全にアレやん!」
「…(汗ダラダラ」
「いやね。理屈ではわかっているんですよね。ああしないと自分が産まれてこないって。でも、実際パパとママのアンニュイな場面を見たら、頭をカナヅチで殴られたような…」
「…(ポカーン」
「何でショックを受けたんだろう…今でも分からないんですよね。浮気現場とは正反対なのに…ショックを受けた自分にショックを受けた…っていうか…」
「………」
「…だから僕は、エロい事はもういいんです。十分以上知りましたから。」
「く、詳しく教えろ!」
「お断りするよ!思い出したくもない!」
「…というわけで、列車から降りた翌日、私達は次の日予定を組む為に合うことにした。」
「あ、こら!勝手に物語を進めるな!」

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