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HP
-中世時代で大逆転-


原典・隙アリ<-「金色の担い手」 より->
製作発案・Zanon
画像:隙アリ/Zanon トップ絵:隙アリ
1468年、当時カスティーリアの王であったアルフォンゾの急死により、カスティーリアは実子イザベラ王女と、アルフォンゾの弟エンリケの間で王位を巡り内紛が勃発した。この内紛は、両人の話し合いにより終結。それによりエンリケの王位を認められ、同時にイザベラ王女の王位継承をも認めるという形となった。そして数年後、イザベラ王女に結婚の話が訪れる。王族間の結婚は、そのまま外交問題ともなる。エンリケ王はイザベラをポルトガル王アルフォンゾ5世に嫁がせようとするも、イザベラ王女はそれを拒否して、アルゴン王子フェルナンドと婚姻を結ぶことを決めた。これに激怒したエンリケ王は、イザベラ王女の王位継承権の剥奪を宣言し、ここに全面対決となった。














HP

西暦14××年×月×日(×)第×××号裁判記録
法務部第三指定封書×××号-××
法王庁機密文書指定××号
「イザベラ王女及びエンリケ王子婚姻取消し裁判」

大聖堂・控えの間

ザワ…ザワ…
弁護側:弁護士
「…やれやれ、こんなことに巻き込まれるなんて思いもよらなかったな。」
弁護側:弁護士従者
「もう!中世を良く見たいなんて言うからだよ!だから早く帰ろうって言ったのに!」
「いや…でも、過去の世界へ行くことなんて、滅多にできないし…ね?」
「ね?…じゃない!だいたい、ここ汚いし、臭いし、キツイし、何も面白いものなんてないじゃん!おまけにコレに巻き込まれてから魔女っコまでどっかへ行っちゃって、何がどこだか分からないし!」
「こ、この時代の欧州には下水設備どころかトイレも無かったし…臭いのは仕方が無いよ…」
「こういう時にこそ、お姉ちゃんを呼びたいんだけど…何だか全然駄目だし…はぁ…」
「ま、仕方が無いよ。なるようになるだけさ(やっぱり過去の世界じゃ、未来に死んだ人間を呼ぶことなんで出来ないよな)」
「なるように〜なるぅ〜?」
「…え?なにその目は。」
「なるようになった結果がこれでしょ!」
「…そ、そうだね(やばい火に油を注いでしまった)」
「そもそも、夜道で助けた二人組みが、王子様と王女様だったなんて、ありえないにもほどがありすぎだよ!…しかも、しかも、その弁護をすることになるだなんて!」
「…凄い偶然だよな。」
「凄いどころか…飛行機事故で無人島に不時着して、何とかサバイバーをくしして生き残って、ようやく客船に助けられたと思ったら、嵐で遭難したぐらいの不運だよ!」
「…そ、そんなに怒るなよ。」
「怒るにきまっているでしょ!第一、召還魔法で、何で弁護士が呼ばれるの!」
「よ、呼ばれたのは裁判だからだよ。まぁ現世の人間が、異次元世界に呼ばれる…良くあるパターンだね。」
「そんな80年代に流行した、肌もあらわなキワドイ格好の女子高生勇者が活躍するような話を例えに持ち出されても分からないよ!」
「ご、ごめん(良く知っているじゃないか!)」
弁護側:アラゴン王国フェルナンド王子
「OK、OK、痴話喧嘩かい?仲が良くて大変結構!」
弁護側:カスティーリア王国イザベラ王女
「やけますわ。もえますわ。ぐりぐりですわ。」
「これは両殿下。」
「はぁ〜王子様と王女様だよ〜」
「(さっきまで文句いってたくせに)」
「いやぁ〜しかし、俺様は本当に運が良い!君のような凄腕の弁護士に出会えるだなんてなぁ!」
「…はぁ、恐縮です。」
「謙遜するな!お前さんが魔女裁判で、本物の魔女を無実にしたってことはよ〜く知っている!」
「あれ?有名なんですか。」
「もちろんですわ!弁護の為なら手段を問わず、あらゆる屁理屈とハッタリをきかす、恐怖の弁護人!もう伝説です。」
「…なんだか、どっかの凄腕検事みたいな評判になっているね。」
「…頼む。それ以上言わないでくれ(本気でへこむよ…)」
「これで俺達の結婚を「無効だ!」なんてほざく奴等に、一泡吹かせてやれる!ははは!」
「これも神の思し召し。日頃の行いが良いからですわ。」
「そうだね!神も俺達を祝福しているのさ!さぁ、二人のよりよい将来のために乾杯しよう!ザッツ・ハニー!」
「そうですわ!全くですわ!その通りですわ!乾杯ですぅ!」
「(な、何なんだろう。この無駄に高いテンションは)」
「二人とも仲が良いよね!」
「そ、そうだね。」
「そうそう。今回、無理して出てきてもらったからには、全力でバックアップさせてもらうつもりだ。もちろん、報酬もたっぷりと用意している。」
「報酬だって!あの魔女っコから何も貰えなかったから、良かったね!」
「え?あ、ああ(…この時代のお金か)」
「お返事が、よろしくありませんわね。」
「支払いのことか?大丈夫、何せ俺達二人の将来に関わることだ。ケチるつもりは無いぞ。」
「恐縮です。」
「…金貨500枚!どうだ。」
「はぁ、ありがとうございます(金貨…今ひとつピンとこない)」
「…ふふ、やはりな。」
「…え?何か。」
「…冗談だ。冗談!成功したら、金貨3000枚用意するさ。」
「3、3000枚!なんか急に上ったね。」
「…え!?あの、いや…いいんですか?」
「またまた!ん〜そのずる賢さ、見習う必要があるなぁ…うん!悪くない、お前さん、悪くないよ!」
「???」
「さすがはユダヤ人だ!」
「え?いや、あの…」
「いやいや、みなまで言うな、分かっている!その口の上手さ!狡猾さ! 金に対する執着心!その肌の色!…俺様は全てお見通しだよ。」
「いや、そうじゃなくて…」
「君がユダヤ人であろうと…いや、近くに司教がいるとちょっとマズイから、小声でいうが…差別するつもりはない!むしろ、心強い!」
「………」
「期待しているよ!ははは。」
「とり合えず、前金の金貨500枚ですわ。残りは裁判に勝った時に…ね!(ドサ」
「うわ!金貨500枚って結構重いよ!」
「………」
「どうしたの?」
「…僕は別にユダヤ人を馬鹿にするつもりもないし、お金を汚いものだとも思っていない。」
「…?」
「…それなのに何故だろう…この全身に広がる汚れちまった感は…」
「…う〜ん。それはきっと、お風呂に入ってないせいだよ!」
「…(ガク」
「お風呂に入りたいよね〜お風呂って、この間、バイキングのおじさんと一緒に入ったサウナ風呂ぐらいしか無いし。やっぱり熱湯のたっぷり入った湯風呂だよね!温泉だよね!」
「そ、そうだね(なんだか頭が痛くなってきた)」
「どうしたの頭をかかえて…頭、痛いの?」
「頭が痛い?…ん、まぁ、そうだね。今回の裁判は文字通り頭が痛いね。」
「今回?…というと、何か違うの?」
「ん〜今回は民事裁判なんだよね。どちらかというと…」
「民事って…そういえば、扱った記憶がないよね。どうして?同じ裁判でしょ?違うの?」
「民事は刑事事件の場合と違って、グレーゾーンが大きいんだ。ようするにどちらかが悪い!と全面的に争うというよりも、両方の意見を聞いて調停する意味合いが強いからね。」
「う〜ん…とにかく面倒なのは分かったよ。どうりで今まで民事裁判を扱わなかったわけだ!」
「(…なんか物凄く馬鹿にされたような気がするけど、言い返せない)」
「ま、何にしても、要点をまとめて、一つ一つ解決していけば良いってことさ。」
「その通りです殿下。」
「この裁判で重要なのは一点、私達の結婚を認めてもらうこと…つまり、相手の「結婚無効」を退けることですわ。」
「ん〜相手の主張を退けるのが目的なら、基本的に今までの裁判と変わりないね。」
「そうだね。今までの手法がつかえる分、今回は民事と言えど、楽は楽だね。」
「安心した?」
「裁判に安心なんてないよ…所で、さも当然のように婚姻取消し話が出てきているけど、その原因をまだ聞いて無かったよね?」
「え?だって、あの有名なイザベラ王女とフェルナンド王子の話だよ?」
「…?いや、そう言われても…ええと、フェルナンド王子、原因は一体何なんですか?」
「ん?そりゃ、ギサンドの和平さ。」
「…和平?どこかと戦争したんですか?」
「………」
「………」
「…あ、あの?」
「も、申し訳ありません!この人、ちょっと可愛そうな人なんで、そういう世情にとんと疎くて…」
「(…うう、何か今回バカにされてばかりだ)」
「…まぁ、そういうこともあらぁな。俺様だって、つい数年前までこの宝石のように煌びやかで、白鳥のように優雅なイザベラを知らなかったんだからな。」
「そうですわ。私とて、フェルナンドに会う前までは、真の喜びと言うものを知らなかったのですから」
「…ああ!イザベラ、お前の瞳だけでパンを十斤は食せる!」
「そんな…私なんてフェルナンドのためならシナモン十樽は一度に使えわ!」
「た、大変だよ!エンゲル係数が上りまくりだよ!」
「(な、なんだかな…)」
「…ともかく、知らなきゃぁ話になんねえな。」
「もう!前の魔女裁判のときは、あんなに色々知っていたのに!」
「あ、あの時は、前もって準備してきたし…今回は、昨日の今日で突然だったし…」
「しょうがないな、じゃあ私が説明してあげるね!耳の穴かっぽじって良く聞くんだよ!」
「…はい。」


事の起こりはイザベラ王女のパパ、つまり先代王が死んだことに始まるの。パパ王の死後、弟のエンリケが王になったんだけど、イザベラ王女を支持するする人達が反発して、エンリケ王とイザベラ王女が喧嘩したの。その後、仲直りしたんだけど、その時に約束したのが「ロス・トロス・デ・ギサンドの和平」なんだよ。

「よく知っていましたね。偉い、偉い(なでなで」
「やった!王女様に褒められたよ!」
「よ、良かったね。…つまり、その和平条項が、結婚反対の理由なんですね。内容はどのようなものなのでしょうか?」
「和平条項は色々あるが、今回に限って言えば「結婚相手はイザベラが選ぶことができる」が「結婚にはエンリケの承認が必要」という条項だな。」
「一応、選ぶ権利はあるんですね。」
「エンリケ王の承諾があれば…ですが。」
「承諾が必要なら、自由に結婚できるわけがない!とどのつまり、あの野郎は俺のイザベラを自分の思い通りに動かしたいだけなのさ!」
「…思い通り?」
「あの野郎は俺のイザベラをポルトガル王のアルフォンゾにやろうとしているんだ!あ、あの親父が俺のイザベラに手を触れると思うと!!!!」
「殿下、お、落ち着いて…こ、怖いよ!」
「ああ、ごめんよお嬢ちゃん。怒りのあまり頭の中でアルフォンゾの野郎を三回ほど殺しちまった。はは!」
「(…こりゃ数万回は殺しているな)
とにかく相手の法的根拠は分かりました。それで…エンリケ王は一体なんで結婚に反対しているんですか?フェルナンド王子は王族なのですよね?」
「その通り、これは自慢だがバリバリのアラゴン王国の王位継承者だ。」
「素敵!でも、例え王位継承者じゃなくても、きっと貴方を愛していたと思う…絶対に…」
「俺だってそうだ。君が街娘であっても、きっと愛して…お持ち帰りしたに違いない!」
「お、お持ち帰りは駄目だよ!」
「(…頭がクラクラしてきた)
それで、どうしてポルトガル王に…」
「もう!ここまで言ってもまだ分からないの!全く駄目だよ!日本の恥だよ、恥!」
「そ、そこまで言わなくても(だって中世史なんて知らないよ)」
「…エンリケ王は私をポルトガル王に嫁がせることにより、両国の関係を良好にするのと同時に、自身の権威を高める狙いがあると思います。」
「それならフェルナンド王子でも良いのでは?次の王ですし。アラゴンとの仲も…」
「…司法試験、本当に合格したの?」
「し、司法試験には中世史なんて出てこない!(いや本当は中世の裁判とかも色々と出てるんだけど…言えない)」
「…はぁ、本当に何も知らないんだね。こうなったら一々説明するのも面倒だから一から全部教えてあげる!」
「お、お願いします。(もう僕の権威もボロボロだな…)」
「現在のイベリア半島は、こうなっているの。」
「へえ〜カスティーリアって大きい国なんだね。」
「えっへん!それはそうですわ。何といってもレコンキスタを成し遂げた大国なのですから。」
「レコンキスタ?確か十字軍運動の一つだよね。」
「そうだよ。元々はイベリア半島の半分はイスラム教国だったの。それを奪回する運動がレコンキスタ。中心になったのはカスティーリアで、1250年ごろには聖王フェルナンド3世の猛攻によりグラナダを残して、ほぼイベリアを手中に収めたんだよ。」
「グラナダって月面都市じゃなかったけ?」
「それはガ○ダム!知識が偏りすぎだよ!」
「ご、ごめん。でも何でクラナダだけ残したんだろう?」
「グナラダの首都アルハンブラは、別名「難攻不落のアルハンブラ要塞」と言われている。しょうみの話、陥落させるのは並大抵の話じゃない。もっとも…」
「私達が力を合わせれば、倒せないものはありませんわ!」
「ははは!」
「ほほほ!」
「何だか良く分からないが、凄い自信だ…」
「でも実際陥落させるし。」
「え?そうなの。」
「良く分かっているね、お嬢ちゃん!よし、結婚したらヤるか!」
「それは良いですね!異教徒なんて血祭りにしてくれましょう!ですわ!」
「…もしかして、今、さらりと歴史に関与しちゃった?」
「し、し、し、しらないよ!私、しらないよ!それより、ほ、ほら、じょ、情勢を見ないと…ね!」
「…そ、そうだね。」
「図で分かりやすくする説明するとね。ポルトガルの王様はエンリケ王に味方して、アラゴン国のフェルナンド王子はイザベラ王女に味方しているってことかな?」
「…そして国内の貴族達は、エンリケ王とイザベラ王女派に分かれて対立していると。」
「エンリケ王は、イザベラ王女の力を削ぎ落としたいと思っている…するとポルトガル王に嫁がせる意味は?」
「分かってきたぞ。つまり、エンリケ王はイザベラ王女を差し出すかわりに、自分への支持を取り付けた。そうすることにより、自分の権威を高めるのみならず、ポルトガルとカスティーリアとの友好を深め、なおかつイザベラ王女の動きを封じることができる。」
「一石三鳥だよね!」
「ところが、イザベラ王女に好意を持つフェルナンド王子と結婚した場合、エンリケ王は支持をとりつけるどころか、逆にフェルナンド王子を味方につけたイザベラ王女の力はます。そうなれば国内のイザベラ派の貴族達の勢いもます!」
「さすがは弁護士、理解が早い!」
「あ、ありがとう(何か嬉しいような嬉しくないような)
しかし、よく知っているね。歴史、好きなのかい?」
「世の中にはね。VICとかEUとか、歴史を扱った面白いゲームが沢山あるんだよ。」
「へ〜そうなんだ。」
「弁護士なんて室内職業の代表みたいなもんなんだから、ゲームとか、アニメとか、特撮とか、ちゃんと見なきゃ駄目だよ。」
「べ、弁護士を引き篭もりのように言わないでくれ(仕事の時は、一日中駆け回っているんだけどな)」
「そのお嬢ちゃんから話を聞いたとおり…つまり、俺と結婚できるかどうかで、イザベラの人生はがらりと変っちまうわけだ。」
「そう…かなり厳しい。ポルトガル王は老練な方…嫁いだ場合、御(ぎょ)せるかどうかは自信がありません。」
「御せるって…」
「まぁ、毎日が夫との知略合戦というのも刺激的で良いかもしれませんが…せめて夫といるぐらいはラブラブと心身ともにリラックスしたいですし。」
「いつも相手の家を乗っ取る算段ばかりしていても疲れるしな。メリハリは必要だよ。メリハリは。」
「な、なんか物凄く嫌なことを聞いたような気がする…」
「…そ、そうだね。」
「弁護人!」
「は、はい。」
「今聞いてもらった通り、この裁判に負けた場合、かなり厳しい選択しか残っていない。」
「私がポルトガル王に嫁いだ場合、私を支持してくれた貴族達も離れる可能性が十分あります。そうなれば…」
「殿下、第一騎槍隊の用意が完了しました。」
「!?」
「第二重装甲騎兵の準備も整いました。命令ありしだい、いつでも突入できます。」
「あ、あの兵隊達は!」
「裁判が敗北した場合のために呼んでおいた。総勢60名だが…召集をかければ、近隣の農民達も金を目当てに合流してくるだろう。」
「馬鹿な!貴方は裁判を何だと思って…」
「聞け!俺は死ぬつもりだ!」
「!?」
「今回の裁判は法王庁主催だ。つまり、今回の裁判によって出された判決は、そのまま法王庁の威光を伴うことになる。」
「そこで抵抗しても、私を支持してくれた貴族達も確実に反対に回るでしょう。彼との結婚は、ほぼ不可能になります。」
「………」
「だが、俺は…イザベラが不幸になるのを承知で判定を受入れるつもりはない。一気呵成に突撃し、エンリケの首をとる。」
「…しかし、そんなことをしても!」
「無駄でしょうね。成功したとしても、最悪、キリスト教に対する反逆の汚名を着せられ…破門。各国は討伐軍を繰りしアラゴン王国は消滅するでしょう。」
「………」
「今回のことは俺の独断。父上には類は及ばないとは思うが…だがそれも、覚悟の上だ。」
「馬鹿な人でしょ?初めてあったときも馬鹿だと思いましたわ…長い道のりをわずかな供をつれて…囚われの姫に合いにくるなんて…騎士浪漫譚の読みすぎです。」
「…でも格好良いよ。」
「妄想と現実の区別をつかない人を格好良い人間とは言いません。それは幼稚だと言うのです。でも…」
「そういうことを言ってくれる人が、一人いてくれて…嬉しかった。」
「ん〜…まぁ道楽貴族が女に溺れたすえの…よくある末路だ。単なる笑い話、お前さんがあまり気にすることはないさ。」
「…笑いません。」
「………」
「別に無理して同調してもらう必要はない。俺達は雇用契約を結んだだけの関係だ。」
「あまり踏み込んでもらっても迷惑だ。それともお前さんも、あのお団子頭のためなら世界を敵に回せるバカ人間とでも言うつもりか?」
「な、なんでここで私が出てくるのかな?かな?」
「…できます。」
「…え!?」
「彼女の為なら…例え全世界が敵に回っても…僕は戦い続けます。」
「………」
「…殿下のイザベラ王女に対する想いと決意は分かりました。ですが、裁判の結果を武力によって否定するのは容認できません。殿下が死ぬとなればなおさらです。」
「………」
「僕も裁判に命をかけて戦います。ですから、お命を無駄にしないように…お願いします。」
「………」
「………」
「…くそっ俺としたことが。」
「…殿下?」
「…ああ、見ないでくれ。恥ずかしくて死にそうだ。俺は人を見る目があると思ったんだがなぁ…ちくしょう。」
「………」
「………」
「………」
「…改めてお願いしても、良いだろうか?」
「…何でしょう?」
「…俺達を救ってくれ。頼む。」
「私からもお願いします…私達を助けて。」
「全力を尽くします。国家でも、王族のためでもなく、貴方達二人のために…」
「…ありがとう。恩にきる。」
「相手は王君在位…巨大な相手だけれど、こちらに有利な点もあるの。」
「それは?」
「…今回の裁判は、王族間の争いという事で注目されている。そのため傍聴人も高位のものばかりだ。他国の王族や司祭といった方々もいるが、そのほとんどは公や伯の位の爵位をもつ貴族達…」
「…そして、その傍聴人の大半はカスティーリアの人間…私を支持してくれる人も、エンリケを支持する者達もいる…そして日和見な…中立な者達も。」
「(なるほど、傍聴人達の支持を受ければ…流れを変えられるということか)」
「…あと、裁判長にカンタベリー大司教が就かれたが…ここだけの話、教会には話を通してある。」
「…買収ですか?」
「嫌な顔をするな。そこまではいってないさ。ま、せいぜい心象が良くなっている程度だろうな。少なくとも公平な判定は期待できるだろう。」
「…つまり、後は貴方の腕しだい。」
「…分かりました。」
ちりん♪ちりん♪
「そろそろ開廷します。こちらへどうぞ。」
「分かりました。じゃあ、いく…ん?」
がばっ
「ふ…ふぇ〜ん。」
「ちょ、どうしたんだい?いきなり抱きついてきて…」
「私、応援するからぁ…ずっと応援するから…」
「…え?」
「絶対、最後まで応援するから!世界中の人達が誰も応援しなくなっても…私だけは、ずっとずっと応援しているからぁ!」
「…ありがとう。うれしいよ。」
「…ひく…ひく。」
「…裁判が始まるよ。行こう。」
「…うん。」


ざわ…ざわ…ざわ…
「うわ…凄い人だかりだ。」
「しかも皆、きらびやかだよ!」
「暇人どもが、よ〜く集ってきたもんだ。」
「(ご紹介をお願いできませんか?と聞くべきなんだろうけど…失礼になるんだろうな)」
「王子、あの人がエンリケ王なんですか?」
「(ナイス!)」
「いや、ちがう。あっちだ…そうだな。順に紹介しておこう。

カンタベリー大司教…今回の判事を務める気の良い老人だ。情にもろく人の世話をするのが好きな、まぁ典型的な司祭だな。もちろん大司教になるぐらいだ、バリバリの教条主義者で異端者には容赦がない。

エンリケ王…カスティーリアの現在の王、愛しのイザベラの叔父にあたる。病弱の裏返しなのか権力にやたら執着している。ま、だが実力が伴っていないせいか王になってからは政治よりも家臣掌握の方に多大なる時間をかけているそうだが。」
「ここだけの話だが、エンリケ王は悪魔の呪いを受けて女に興味が無くなった話さ。」
「あ、悪魔の呪い!?」
「それで前妻と別れたらしい…まぁ、現在の奥方との間には娘が…フアナって言うんだが…一人いるから、離婚のための単なる方便なんだろうとは思うがな。」
「あ、知ってる!ファナ姫って王族の血を引いてないんだよね。」
「しっ!お嬢ちゃん、そういうことは言っちゃダメだ。」
「大きい声で言っていると、怒られてしまいますよ?(ニコニコ」
「…うう。怖いよ。怒られちゃったよ。」
「(…やれやれ)
王族の血を引いていない…というのは本当なんですか?」
「噂だ、噂。エンリケ王が女性に興味が無いのは知られているしな。それでそんな噂が流れたんだろう。」
「そうそう、人工授精させた…なんて話もあるぐらいですわ。もし本当なら錬金術師でも雇ったのでしょうか?」
「(じ、人工授精?この時代に?)
今日は…そのエンリケ王の娘は来ているですか?」
「フアナちゃんか?いや、さっきから見渡しているんだがいないようだな…ん?」
ポルトガル王従者アーサー・シン
「………」
「ありゃ、アルフォンゾのクソ親父の従者…アーサーじゃねえか。アルフォンゾのヤツ今日の裁判にくるつもりなのか。」
「アルフォンゾ…ポルトガル国王ですか、今日はこられない予定だったんですか?」
「いや、聞いてないが…てめぇの結婚に関わる裁判だからな。来てもおかしくはないさ。しかし、こいつぁ都合が良い…」
「…させませんよ。」
「…なに?」
「今日の裁判は我々が勝つんですから。」
「はっ!…頼んだぜ、相棒。」

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この物語はフィクションです。
実際の組織及び人物、歴史、事件などにはいっさい関係ありません。

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