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HP
-中世時代で大逆転-


「金色の担い手編」

-公判2:逆転の帝王-















HP

西暦14××年×月×日(×)第×××号裁判記録
法務部第三指定封書×××号-××
法王庁機密文書指定××号
「イザベラ王女及びエンリケ王子婚姻取消し裁判」

大聖堂・法廷


ザワ…ザワ…ザワ…

ザワ…ザワ…
裁判長・カンタベリー大司教
「これより公判を再開します。なお、エンリケ王はお倒れになりましたので、告発側代理人としてポルトガル国王アルフォンゾ5世陛下が出廷することとなりました。」
告発側・アルフォンゾ5世
「…皆の衆、よろしく。」
弁護側・弁護人
「…ちょっと、よろしいですか?」
「なんでしょうか?」
「その…アルフォンゾ陛下は、今までの公判を見ておられませんが…」
「…裁判録なら、先ほど全て読んだ。問題は無い。」
「さ、裁判録を15分で!?」
「これ、主様を侮辱されるおつもりですか?あれぐらい、主様なら2分もあれば読み通せますぞ。」
「…アーサー、余計なことは言わんでよろしい。」
「申し訳ありません。」
「(速読!?噂どおり、ただものじゃない…)」
「弁護人の主張したいことは分かります。ですが、アルフォンゾ陛下には、公判開始より傍聴しておりました執事もついていることですし、問題は無いでしょう。」
「…わ、分かりました。」
「落ち着け…飲まれているぞ。」
「頑張って。」
「…うん。」
「では改めて、公判再開を宣言します。」


弁護側:弁護士 VSアルフォンゾ5世:告発側
「では、先ほど弁護側が主張した「教会及び神に対する反逆」と「エンリケ王の退位とイザベラ王女への即時継承」に関して、告白側は何か言いたいことはありますか?」
「…ナンセンスだ。」
「………」
「………」

…シーン
「…え…と、アルフォンゾ陛下、もう一度よろしいですか?できれば詳しく説明して頂けるとありがたいのですが。」
「ふぅ…我々は婚姻の無効を求めておる。それが何で教会と神に対する侮辱になるのだね?」
「さ、裁判録を見られたんですよね。でしたら経緯を…」
「裁判記録を見たから言っておるのだ。下らん…要は「なぜ結婚に反対するのか」その理由を聞かんが為のハッタリであろう。」
「(…ば、ばれてる)」
「…全くその通りですね。では弁護側の告発を棄却します。よろしいですね?」
「え!?でも、しかし…」
「うろたえるな。当初の目的であった「契約」問題の棚上げに成功したのであろう。これ以上、この問題を引っ張ってどうする?」
「(そ、それも見破られているのか!?)」
「こちらも、契約問題を蒸し返さず、おぬし達の土俵で戦おうと言っておるのだ。ごちゃごちゃつまらぬことで時間をかけるな。」
「………」
「ど、どういうこと?」
「今回の裁判で一番の頭痛のタネは和平の契約条項「婚姻にはエンリケの合意」でした…その問題を「愛が足りない」と、そらしてウヤムヤにしてしまったことを王は言っているのでしょう。」
「…弁護側も特に発言が無いようなので棄却します。」

ザワ…ザワ…
「(く…何なんだ、この空気は…)」
「(ヤバイな…大司教の雰囲気も違いやがる…アルフォンゾの野郎…免罪符を幾らで買う約束をしやがった)」
「…あと、エンリケ王の退位とイザベラ王女への即時移譲だが…こんな訴え、本当に通ると思っておるのか?」
「しかし、エンリケ王は、王位に相応しい人物とは思えない!」
「………」
「………」
「………」
「…あ、あの…陛下?」
「…無礼な。」
「…は?」
「仮にも一国の王をつかまえて「思えない」だと?…貴様、何様のつもりか!」
「陛下の言われるとおりです。弁護人、もう少し言葉遣いを改めるように。」
「は、はい。」
「………」
「では陛下…改めてお聞きします。エンリケ王に資質がありますでしょうか?」
「………」
「…へ、陛下?」
「同じ質問を受けると、先ほどの不快な気分が蘇ってくる。答える気になれん。」
「弁護人、質問の内容を変えてください。」
「…クッ(何てやりにくいんだ)
では、先ほどの質問に戻りたいと思います。エンリケ王はキリスト教徒でありながらグラナダを放置していました。これについては、どう思われますか?」
「臣下の掌握に手間取っていたからであろう。」
「それでは、エンリケ王の資質を疑っているのを、お認めになられるのですね?」
「…質問の意味が分からん。」
「分からないわけが無いと思います!今、家臣を掌握できていないと、陛下ご自身が言われたではありませんか!」
「そう申した。」
「なら…」
「…あそこにおる。じゃじゃ馬王女のためにな。」
「…!」
「そ、それはどういう…」
「…裁判とは面倒なものよ。一般常識を一々説明せぬばならぬとは。」
「答えになっておりません!」
「…落ち着け弁護人。アーサー、お茶を。」
「はい、主様。」
「…ふむ。良いお茶だ。腕を上げたな、アーサー。」
「(ク…完全に主導権を握られてしまった。なんとか流れを変えないと…)」
「…臣下をなぜ掌握できぬのか?」
「…!」
「それはイザベラ王女との争いに、原因がある。」
「…なら」
「チッ、チッ、チッ、…弁護人、失望させてくれるな。」
「…!?」
「家臣団をまとめられなくて王になる資格が無い。と主張するのならば、未だに王にもなれず争いを続けておるイザベラ王女とて同列であろう。お前はエンリケ王だけでなく、イザベラ王女の王位をも剥奪する気か?」
「(よ、読まれた!?)そ、それは…しかし…その…」
「ん?まだ何か言い足りないようだな。」
「つまり、エンリケ王は病弱であり…」
「病弱?ハッ!痛めつけた当人の言葉とも思えぬな!」
「…うっ」
「まぁ、良い。付き合ってやろうではないか。」
「………」
「なるほど、病弱では王の資質を疑われても無理は無い。現に病弱で王位継承を下げられた者もおる…しかし!」
「!」
「病弱であっても、己が命を燃やし、統治し続けた者もおる!片目を失い、足を失い、下半身不随となっても、領地を見守り名君とうたわれた者もおる!」
「………」
「真の君主とは何か?それは知優れし者か?胆力に優れし者か?あるいは強力ありし者か?…否!それは意思、領土を束ね、国家のあるべき姿を予見し導く、強靭なる意思を持つ者を言うのだ!」

\ オオオオオオオオ! /
「(お、思わず、聞き惚れてしまった)」
「静粛に!静粛に!」
「弁護人、汝に問う。」
「は、はい。」
「肉体と意思は同一のものか?」
「…ち、違います。」
「肉体が弱まりし者や、肉体を欠損せし者の意思は、弱濁で信用できぬものか?」
「…違います。」
「障害を持つものは、王になってはならぬのか?」
「………」
「………」
「…違います。」
「…以上だ。」

どよ…どよ…
「な、なんでアッサリと屈服しやがったんだ!?どうして言いかえさねぇ!」
「…無理だよ。」
「なぜだ!誰が考えたって…」
「必死になって生きている人達を否定するなんてこと…できないよ。」
「…クソッ!アルフォンゾの奴…相棒の性格を知ってて言ってきやがったんだな!なぶりやがって…」
「………」
「…元気だして。」
「…人は成長し、さらなる高みを目指すものだ。」
「…!」
「なるほど、エンリケ王は現在においては十全なる存在とはいえぬかもしれぬ。…しかし、だからといって将来における可能性を閉ざして良いものであろうか?」
「………」
「エンリケ王の可能性ですか…失礼を承知でお聞きします。アルフォンゾ陛下は、それを証明することはできますか?」
「…余は、エンリケ王こそ、我がポルトガルの盟友に相応しい人物であり、結婚を通じて親族になるにふさわしい傑物であると確信しておる。だからこそ、イザベル王女との婚約を決めたのだ。」
「…分かりました。アルフォンゾ陛下の信頼はなによりの証明ですな。では、弁護側の告発「エンリケ王の退位とイザベラ王女への即時継承」は棄却します。」
「…あっ、」
「よさぬか!」
「!?」
「お前は一体、何がしたいのだ?王位の剥奪は主目的では無かろう!」
「…うっ」
「つまらぬことを気にかけるより、目的を見失わぬことだ。」
「………」
「棄却します。よろしいですね?」
「…はい。」
「では棄却します。」


ザワ…ザワ…ザワ…
「い、今までやってきたのが、全てなくなっちゃったよ!」
「…まずい。やはり、ここは…」
「待って…」
「イザベラ…」
「…最後まで信じましょう。ね?」
「…ああ。」
「さて、つまらぬ問題を掃討したところで本題に入ろうではないか。アーサー…」
「はい、もう一杯でございますね。」
「本題とは何でしょうか?」
「この裁判の根幹…すなわち「なぜ結婚を容認しないのか?」…これであろう。」
「………」
「権利うんぬん言った所で、誰も納得できぬであろう。それよりも「なにゆえフェルナンド王子よりもアルフォンゾ大王の方が素晴らしい」のかを、語った方が理解も早い上に、万人が納得できよう。」
「フェルナンド王子よりアルフォンゾ陛下が素晴らしいなどと…一報的な言い分です!」
「安心しろ、弁論の機会は与えてやる。そんなに慌てるな。」
「くっ!」
「…分かりました。では、アルフォンゾ陛下お願いします。」
「傍聴人…そして、カスティーリア貴族の諸君。なぜイザベラ王女は我に嫁ぐべきなのか?それは…」
「余とポルトガルは偉大だからである!」
「………」
「………」
「………」
「………」

…シーン
「…陛下…その、裁判なので、もう少し具体的なお言葉を承りたいのですが。」
「ふぅ…当たり前の事を言わぬばならぬとは、存外面倒なものだ。」
「主様どうぞ。この一杯でお心をお静めになられて下さい。」
「うむ…甘いな。ハチミツ入りか。」
「陛下!法廷は優雅にお茶を嗜む場ではありません!」
「………」
「………」
「………」
「…あ、あの。」
「…ふむ、そう慌てるな。いつ、如何なる時も心に余裕を持つ。それが大事では無いか?」
「…いや…それはそうですけど。(こ、この人。意外に天然なのか?)」
「…陛下、弁護人の言うとおりです。お手を休めて頂けませんか?」
「…よろしい。説明しよう。我がポルトガルの経済力に裏打ちされた精強なる騎兵隊。それらを自由自在に運用することが可能な大艦隊。」
「そしてそれら軍勢を縦横無尽に動かし、広大なる領土をせしめた、余の天性かつ老練なる手腕。…これ以上の説明が必要かね。」


…おおおおおおお
…さすがは南方に植民地を獲得した王…
…アフリカ王の異名はダテではありませんな!…
…ポルトガル王万歳!…アルフォンゾ陛下万歳!…
「静粛に!静粛に!…ふぅ〜む。イスラム教圏にキリスト教の楔を打ち込んだ方のお言葉は、こう、説得力が違いますな…」
「(…まずい、実績を持ち出されると…相手にならない。というか対抗しようにもフェルナンド王子の実績なんて知らないぞ!?)」
「…このような強国と盟と婚姻を結ぶ。その恩恵は計りしれんだろう。」
「それは主観的な見方です!客観的な要素など何一つありません!そもそも、広大な領土と言っても、アラゴン王国と…」
「我が領土は四百万海里なり!」
「なっ…」
「我がポルトガルは世界へと繋がる大海を目指しておる!カスティーリアの艦隊と余の艦隊が手を取り合えば、世界の全海域を制することも、また可能であろう!」
「そ、そんな…」
「カスティーリアの諸君!余はここに約束しよう。イザベラ王女との婚姻のあかつきには、我国は諸君等を海上へと導き、覇者への道標となることを!すなわち…」
「ここに海上帝国の建国を宣言する!」

\ ドオオオオオオオオ /
\ ドオオオオオオオオオオオ /
「静粛に!静粛に!静粛に!」
\ ドオオオオオオオオ /
「(や、やられた…引き立て役に利用されてしまった)」
\ ドオオオオ /
「…く、くぅ。」
「……(ギュ」
「(しかし、お二人の幸せのために…負けるわけにはいかない!)」
「それは…フェルナンド王子にも言えます!」
「ほう…何かあるのかね。」
「フェルナンド王子にも、壮大なるビジョンと、浪漫があります!」
「…ふむ、聞かせてもらおう。」
「…ありますよね(ボソ」
「…すまねぇ相棒。今の所、イザベラとの結婚以外、何も考えてねぇ(ボソ」
「…な、何にも?(ボソ」
「…やれるもんなら、何とか善処してみる。何かひねりだしてくれ(ボソ」
「…どうした?」
「それは…つまり…その…(こ、こうなれば即興で何かプランを考えないと…国家規模のプロジェクトを!?死にそうだ)」
「…余の海上帝国に匹敵する案だ。さぞ壮大なるものであろう。例えば…そう、アトランティス大陸の発見、欧州の統一、」
「(ク…こちらが何も無いのを知って…)」
「…それとも暗黒大陸の制覇…いや世界一周でも行うのか…」
「(ん?…アトランティス大陸?世界一周…そういえば…コロンブスの発見は149…)」
「そうです!」
「…なに?」
「フェルナンド王子は、未知なる大陸を発見するでしょう!」


\ オオオオオオオオ /
「未知の大陸の発見!!!?
そのような話、聞いたこともないぞ!アーサー!」
「申し訳ありません主様。そのような情報は探知しておりません。」
「知らないのも無理はありません!何せフェルナンド王子が見つけるのですから。」
「…むぅ。」
「そうですよね王子!」
「………」
「………」
「………」
「(…あれ?)」
「…む」
「…む?」
「…無茶言うな。幾らなんでもフォローしきれねぇぞ。」
「…へっ?」
「…そんなことを言っても通じないと思うよ。(ボソ」
「いやだって、コロンブスは…(ボソ」
「…コロンブスの目的って、地球の反対側からインドへ向かうことだったんだよ?(ボソ」
「じゃあ、新大陸の発見は!?(ボソ」
「100%ナチュラルに偶然の産物…新大陸なんて、発見計画どころか、あることすら誰も想像していないハズだよ。(ボソ」
「え!ええええええ!?」
「ハハハハ!何かと思えば、口から出任せか。それとも昨夜は、夢にプラトンでも現れて、教えをこうたのか!」


\ ハハハハハ /
「静粛に!…弁護人、いい加減なことを言わないように…ペナルティを与えますよ!」
「うう…裁判長の心象が悪くなってしまった。」
「では改めて聞こう…余の海上帝国に匹敵する案を、フェルナンド王子は持っているのか?」
「(考えるんだ…アラゴンの王国位置…そしてフェルナンド王子の気性から考えて…)」
「あります!」

おおおお…
「では聞かせて貰おう。余の海上帝国に匹敵する案を!」
「それは…地中海帝国です!」
「………」
「………」
「………」
「………」

…シーン
「…地中海帝国とはアラゴンを中心に…って、あれ?」
「地中海帝国って…アラゴンって、既に地中海帝国って言われているよ。」
「な、何だって!?」
「…なるほど、フェルナンド王子は現状維持で精一杯ということか。分からぬでもない。まだ、若いのだしな。」
「い、いや、そういうわけでは無くて…」
「そ、そうですわ!地中海ですわ!地中海は、軍や商船が行きかう欧州における海上交通のかなめ!これを制する利益は、はかりしれませんわ!」


…ざわ、ざわ
「…ふむ。」
「い、イザベラ王女(…助かった)」
「…弁護人。」
「は、はい。」
「…イザベラ王女のフォローで、それらしく聞こえますが、貴方、また適当なことをいいましたね?神に仕える私には、お見通しですぞ!次は本当にペナルティを与えます!」
「…うう、すいません(また裁判長の心象が悪くなってしまった)」
「…現状維持は壮大な案とは言えぬな。言いたいことはまだあろう。三度目の正直だ、聞こう。余の海上帝国に対抗する案は、目的は、フェルナンド王子は持っているのかね?」
「…あ、ありません(クソッ!)」

ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!」
「素直でよろしい。人間は、素直でなくてはな。」
「しかし、人間の大きさとは目的だけとは限りません!例え大きな事を言っても実現できなければ、単なる誇大妄想狂にしか過ぎないのです!」
「道理だな。しかし、目的意識の低いものがより良い人間とも思えぬが。」
「私は人間性の問題を提起しているのです!」
「ほう、彼は人間性において余より優れているというのか?」
「では、その根拠を示して下さい。」
「フェルナンド王子は、騎士道精神に溢れる誠実な男性です。愛する人のために、身を挺して戦おうと決意した、その心は…まさに騎士の鏡でしょう。そう、例えその結果、国を滅ぼすことになろうとも…です!」
「なるほど、愛に生きる。それは素晴らしい事です。アルフォンゾ陛下は、どう思われますか?」
「あきれてものも言えぬわ。」
「な、何だって!?」
「ク!だ、黙らせてやりてぇ!!」
「静かにしないと、私が貴方を黙らせますよ(ニコニコ」
「ご、ごめん。」
「騎士道とは、人の妻を勝手に拉致して監禁するような輩が称するものなのか?」
「だ、誰が貴方の妻ですって!?」
「お、落ち着け!」
「拉致でも監禁でもありません!当事者達の合意があって、そこにいるのです!」
「余は合意した覚えは無い。ならば不倫か?結婚前に不倫とは嘆かわしい。姦淫の罪を美化するなど、貴様らはどうかしておる。」
「ぶぶぶ、ぶっ殺してやる!」
「わ、私が許可します!こ、殺しなさい!殺しなさい!」
「ふ、二人共、お、お、おちついてぇ〜」
「妻も何も、まだ結婚されていない!婚約段階ではないですか!しかもそこにイザベラ王女様の意思は無かった!」
「なるほど、自分の意思を国家の決定より優先したわけか。なんという身勝手な思考だ。統治者としての資質に欠けるとしか思えん。」
「あ、愛する人の為に戦うのが悪いと!」
「悪い。決まっておろう。自分の個人的な思い入れで国家を危機に直面させるなぞ、無能の証左ではないか。」
「…あ、うぐ。」
「そもそも…誠実な男だと?笑わせるでない。外に居る50騎は一体何なのだ?」
「(フェルナンド王子の突撃隊!?)」
「ま、まさか、神聖なる法王庁主催の裁判に、軍勢を引き連れてきたのですか!?」

ザワ…ザワ…ザワ…
「あ、あれは儀杖隊です。裁判に勝利した暁には…その行進を…」
「さもありなん(ニヤ」
「!?」
「な、何かしたのか!?」
「いや、いや、儀杖隊にしては殺傷力のある武器を備えていると思ったものでな。余の部隊…ああ、これもフェルナンド王子と同じく儀杖隊だが…の余剰を渡しておいたぞ。」
「ぐっ!?」
「今頃、余の儀杖隊と共に、行進の練習でもしておることだろう。50騎分を回すのは大変だったが、何、余と王子のあいだ。ハハハ!」
「…ご好意、痛み入る。」
「………」
「(さ、最悪だ。王子の部隊は監視下におかれ、その上、裁判長の心象も劇的に悪くなった!これでは、もう…)」
「…まぁ、これで、皆も誰がイザベラ王女の相手に相応しい人物か、理解できたであろう。」
「(駄目だ…もう…何も思いつかない。情報量が…手持ちの札が少なすぎる!)」
「フェルナンド王子も、確かに人物としては悪くは無い。それは余も認めておる。だが、王子は、あまりにも自分勝手で近視眼的すぎる。これも若さゆえの過ちであろう。」
「(裁判長を説き伏せることも…傍聴人の貴族達を説得する材料も無い。そもそも中世史を知らない僕が、戦いを挑むこと自体が無謀なんだ。)」
「まあ、妻を娶るのならば、もう少し研鑽し、己を磨くことだな。では…そろそろ判決を出してもらおうか。」
「(…終わりだ。)」

「しっかりしなさい!」
「…え?」
「あっ!」
「貴方…何をうつむいているの!男でしょう、上を向いて戦いなさい!」
「…な、なんで…ここに?」
「いいから聞きなさい!さっきから傍聴していたけれど、貴方は大きな勘違いをしているわ。」
「…勘違い?」
「貴方の目的はなに?皆にフェルナンド王子の良さを伝えること?エンリケの王位を奪うこと?裁判長の心象を良くすること?…違うでしょう!」
「…え、違う?(そうだ僕の目的は…)」
「(裁判に勝つこと!)」
「分かってきたようね。じゃあ、ご褒美に大ヒントを教えてあげるわ。…発想を逆転させなさい。」
「…発想を逆転?」
「そう、なぜこの裁判が起きたのか?どうしてアルフォンゾ陛下が告発側として、その席にいるのか?」
「(…なぜ、この裁判は起きたか?それはエンリケ王が告発したからだ。そしてアルフォンゾ陛下が、告発側の席にいるのはエンリケ王が倒れたから…あれ?何か忘れているような)」
「…それが分からなければ、終わりね。」
「(…ああ、そうか。何でアルフォンゾ陛下がエンリケ側にいるのか、その理由を考えていなかった…というか考えるまでも無いような…結婚を阻止すれば、イザベラ王女と結婚でき…)」
「あ、ああ!そ、そうか…そうだったのか!」
「ようやく分かったみたいね。相変わらず血の巡りの悪い男…」
「あ、あの…ありがとう。でも、どうして…」
「私だって…」
「…?」
「私だって、人を愛したことぐらいあるわ!」
「…え!?」
「…それが言いたかっただけよ。助言は…まぁ、貴方があんまりふがないと、私のプライドが許せないからね。」
「…プ、プライド?」
「そりゃそうでしょう。戦った相手が「単なるマヌケ」だったら、敗れた私の立つ瀬が無いわ。」
「(ま…マヌケって…でも言い返せない)」
「でも、助けてくれるなんて、案外いい人だよね。」
「笑わせないで!私以外の人間に負けて欲しくないだけよ!それに…」
「それに?」
「私だって…本当に愛し合っている人達が別れる姿なんて…見たくはないわ。」
「………」
一体何事ですか!突然、傍聴席から降りてきて、裁判の邪魔をするとは…執行人!」
「はっ!…こっちへ来るんだ!」
「触らないで!猫の子じゃないわ自分の脚で出て行くわよ!」
「・・・あっ」
「裁判の結果、後で聞かせなさい。じゃあね!」
「………」
「全く…神聖なる法廷を、何と心得ておるのか。」
「…エンリケ王の飼い猫か。なるほど、キレる猫だ。あのような者を手放すとはな…」
「猫は、所詮猫でございます、主様。」
「…ふむ。」
「…では、そろそろ判決を下します。」
「裁判長!弁護側は、アルフォンゾ陛下の全主張を容認できません!」
「今更何を…」
「…なぜなら、ポルトガルによるカスティーリア介入…乗っ取りの可能性があるからです!」

ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!」
「…やはり…か。アーサー、お茶を。」
「はい、主様。」
「………」
「…今度は、とがめぬのか?」
「ええ、そのお茶が、心安らかに飲める、最後の一杯でしょうからね。」
「…面白い。聞かせてもらおう。」
「よろしいのですか…お茶、冷えてしまいますよ?」
「…アーサー、お茶を下げろ。」
「はい、主様。」
「…では、弁護人。どうぞ。」
「…不思議に思っていました。なぜ、陛下はそれほどまでにイザベラ王女との婚姻を望まれるのかを。」
「…それは両国の関係を深める為である。」
「両国の関係改善と共に、美しい妻を娶ることができる…なんら不思議なことでは無いと思いますが?」
「いいえ、裁判長。それは違います。…陛下が欲しかったのは、隣国の友好でも無ければ、美しい妻でもありません…それは、イザベラ王女の持つ王位継承権そのものです!」


ドオオオオオオオオ
「静粛に!静粛に!」
「…ふむ。迷った挙句陰謀論を振りかざすとは…追い詰められたネズミの何と哀れなものよ。」
「…動揺されましたね陛下?」
「…なに?」
「…今までの陛下でしたら、私をあざとく言わず、受け流していたはずです。」
「………」
「今こそ確信しました!陛下、貴方はカスティーリア乗っ取りを企んでおられる!」

ドオオオオオオオオ
「静粛に!静粛に!…弁護人!貴方は何を言っているのか、分かっているのですか!?」
「…裁判長、我々は勘違いをしていたんです。」
「…勘違い?」
「ええ、我々は今までこの裁判を「アルフォンゾ陛下は、なぜ婚姻に反対するのか」というのを基準に考えてきました。…実は、これは逆だったんですよ。」
「…逆…ですか?」
「そう、我々は「アルフォンゾ陛下は、婚姻に反対するのか」では無く、「なぜ、アルフォンゾ陛下はイザベラ王女と結婚したいのか」と考えるべきだったんです!」
「………」

バン!
「アルフォンゾ陛下の結婚相手はイザベラ王女でなくてはならなかった!なぜなら、イザベラ王女の王位継承権を手に入れ、カスティーリアを…イベリア半島を我が物と企てたからです!」
「憶測でものを言うのはやめよ。どこにそのような証拠がある。」
「ならばなぜ、フアナ王女ではないのですか!」
「…なに?」
「陛下は先ほど、こう言われた。「両国の関係を深める為」だと!ならば、エンリケ王の実子であるフアナ王女を妻に迎えた方が、遥かに効果が大きいはずではありませんか!」
「…グッ」
「しかし、フアナ王女では陛下の思惑にそうことはできない…なぜならフアナ王女には王家の血が流れていない可能性があるからです!」
「それは真のことですか?」
「信憑性の有無は分かりません。しかし、本当かどうかは、このさい関係ないのです。そういう噂があり、周囲に認知されているということが重要なのです。」
「………」
「人は、それが真実では無い噂であっても鵜呑みにしてしまう傾向があります。「実は王家の血が流れていないかもしれない」という、たった一文の言葉で、一気に信憑性が疑われ、その存在があやふやなものになってしまうのです。そう…」
「貴族達の支持が得られず、王位継承すら危ういぐらいに!」


ザワ…ザワ…
「だからアルフォンゾ陛下は、フアナ王女では無く、イザベラ王女を選んだのです!彼にとって必要な、大儀名分を得る為に!」
「…全て状況証拠による憶測にしかすぎん!」
「ならば、陛下の御口から、真実をお聞かせ願いたい!」
「…なに?」
「陛下の御口から、王位継承権を盾に、カスティーリアに介入しないムネをお聞かせ願いたい!」

ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!」
「…ふぅ、邪推するのも甚だしい。そもそもイザベラ王女との婚姻はエンリケ王から申し出があったものぞ。幾ら万能なる余と言えども全てを操ることなぞ出来ぬ。」
「その通りです。アルフォンゾ王とはいえ、最初からカスティーリアへの介入は考えていなかったと僕も考えています。」
「…なんだと?」
「どういうことでしょうか?」
「状況を推測するに、アルフォンゾ王がカスティーリア介入を決めたのも婚姻が原因だと考えられるのです。」
「………」
「なぜ、エンリケ王が婚姻を進めたか。
エンリケ王が、イザベラ王女をアルフォンゾ陛下に嫁がせる意味は3つあります。
一つ目は、アルフォンゾ陛下の支持を得られる。
二つ目は、イザベラ王女を国外へと追放できる。
三つ目は、1と2により、エンリケ王の権威は高まるのと同時に、反エンリケ派の求心力は低下、国内の政情は安定します。
まさにエンリケ王にとっては至れり尽くせりの婚姻なんですが、この婚姻締結には一つだけ分からないことがあるんですよ。」
「分からないこととは何ですか?」
「…それは、アルフォンゾ陛下がイザベラ王女を向い入れる動機です!」

ザワ…ザワ…
「…何度も同じ事を言わせるでない。もちろん友好のために決まっておろう。」
「普通の王ならばそうでしょう!」
「…どういう意味だ?」
「僕は陛下を信じています。そう、この法廷でお話されたことが全て真実であると!」
「…褒め殺しは良い。結論を言わぬか。」
「陛下は先ほど言われました!精強なる軍勢と、それを自在に操る才覚を有していると…そして傍聴人の方々も言われました!南方に植民地を獲得した、偉大なる王であると!」
「………」
「各地に植民地を獲得し、今まさに海上帝国を立ち上げんとするほどの高い野心と、それを実現可能にする才能と行動力のお持ちのアルフォンゾ陛下が…王位継承権を持つ王女との婚姻を提示されて、内紛に揺れるカスティーリア介入への好機と考えないわけがありません!」

ザワ…ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!」
「…なるほど、華麗なる戦歴をひもとけば、疑心暗鬼に陥ってしまうのも仕方あるまい。だがそれは、疑心からでた妄想でしかない!」
「ならば陛下は、なんら野心は持たないといわれるのですか!」
「王は領国の発展のために野心を持って行動する必要はある!従って野心が無いかと問われれば、これを否定することは叶わぬ!」
「…なるほど、あえて否定はしないということですね?」
「…そうだ。だが、汝に問う。そこのフェルナンド王子はどうなのだ?違うとでも言うのか?」
「もちろんです。フェルナンド王子は、何の邪(よこしま)も無くイザベラ王女への愛ゆえに共に生きていこうとしています。」
「話にならぬ!女一人のために国運をかけるなぞ、統率者としてあるまじき行為!」
「愛する者一人、幸せに出来ずして民衆を幸せにできるとは思えません!」
「王は一人、孤独に生きるもの!愛や情に囚われて正しい判断なぞできようか!」
「敬天愛人!天にまします神を敬い、人を愛してこその、人の道!陛下はそれを否定なさるのですか!」
「神を敬うのは道理!しかし、王は無条件で人を愛するなど論外なのだ!王は、領土と、そこに生きる幾数千数万の領民に対して責任を持つ!そこには冷徹な計算と、冷酷な決断が必要なのだ!」
「陛下の考え方は認められません!エンリケ王に言った台詞を陛下にも言わせてもらいます!貴方には愛が無い!」
「下らん!愛をひけらかして勝ったつもりか?」
「下らない?なるほど、つまり陛下はこうおっしゃりたいわけですね。愛や情は必要ない。己が実利にかなうことしかしない…つまり野望のために結婚をなさると!」
「なんだと!?」

ザワ…ザワ…ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!」
「弁護人の言葉のレトリックには付き合いきれん。冷徹なる計算に元ずく、もっとも合理的な結果の為に結婚する!そう言い直すのだな!」
「つまり陛下は、嘘をついているのをお認めになられるのですね?」
「どういう意味だ!」
「陛下ご自身が言われたんですよ。愛や情は必要ないと…愛や情を否定する陛下が、隣国に対して、本気で友好を求めているとは思えません!」


\ ドオオオオオオオオ /
ガヤガヤガヤガヤ…
「…バカな!話にならぬ!隣国との友好は軍事的脅威の排除、そして経済交流と発展のためにも高めておくのは当たり前、政治の基本ではないか!」
「そうです。普通の友好ならば、そうでしょう。しかし陛下は、今回の婚姻を関係強化と言われ…そして両国共に力を合わせて帝国をつくろうと宣言された!」
「………」
「しかし、それは、あきらかに陛下の発言と矛盾しています!単なる友好のアピールにしては、内容が大きすぎる!自国利益のためならば他国など気になさるはずがない王の、このあまりにも過剰な友好宣言は何を意味するのか!」
「………」
「それは…カスティーリアを己が領土の一つと考えているからではありませんか!」


\ ドオオオオオオオオ /
\ ドオオオオオオオオオオオ /
「どうしても余を簒奪者にしたてあげたいらしいな。では、汝に改めて問う!」
「なんでしょうか!」
「フェルナンド王子は違うとでもいうのか!カスティーリアを我が物としたいがためにイザベラ王女と結婚したいと言うのが本音では無いのか!」
「それはありません!」
「なぜ、そう言いきれるのだ!」
「それは、お二人のお子です!」
「子供だと?」
「イザベラ王女は王位継承権を持ち、フェルナンド王子は次期アラゴン王国第一継承者。すると、その子供は、カスティーリア王国とアラゴン王国両方の継承権を持つことになります。」
「つまり、片方の国がもう一方の国を制圧する…という問題では無く二人のお子は、カスティーリアとアラゴンの王となる。つまり、両国は同一君主の元に統一されるということです!」


おおおおおおお!
…おお…レオン=カスティーリア=アラゴン三重王国か…
…これは凄いな…事実上のイベリア統一じゃないか?…

「声高に主張することか!それならばイザベラと余の子とて同じでは無いか!」
「主様!」
「…!」
「果たしてそうでしょうか?フアナ王女の存在を忘れたわけでは無いでしょう。エンリケ王は、カスティーリアの王位継承権は敵であるイザベラ王女にではなく実子のフアナ王女にあると…」
「………」
「…(ハッ!?」
「そうです!エンリケ王は次期継承権をフアナ王女にあると考えているはずです!つまりアルフォンゾ陛下がイザベラ王女と結婚しても、その子供には継承権は存在しないと考えているはずです!」
「………」
「エンリケ王を支持していらっしゃるアルフォンゾ陛下ならば、それを知らないわけはないじゃないですか!それなのに陛下はイザベラ王女との間の子に継承権があるように言われた…つまり陛下は…」
「…グッ」
「初めからエンリケ王を騙して、カスティーリア乗っ取りを企てていたんですね!」


\ ドオオオオオオオオ /
\ ドオオオオオオオオオオオ /
「全く話にならぬ!白昼夢と妄想の産物としか思えぬ。何の証拠があって…」
「ならば、答えて頂きましょう!私はまだ「継承権を盾にカスティーリアに介入する」かどうかの答えを頂いてません!」


\ ドオオオオオオオオ /
\ ドオオオオオオオオオオオ /
「静粛に!静粛に!」
「…あ。」
「…何ですか?」
「裁判長…いらしたんですね。」
「…怒りますよ。情勢を眺めていたいただけです。全く…わたし置いて勝手に盛り上がるとは。」
「(さ、裁判長をイジケさせてしまった)」
「…アーサー、お茶を。」
「はい、主様。」
「…陛下。またお茶ですか?」
「…まぁ、慌てる事もあるまい。しゃべりすぎて口の中が渇いてしまったわ。喉を潤すぐらいの時間はあろう。」
「…まぁ、そうですね。弁護人も何か飲みますか?」
「…いえ、結構です。」
「そうですか、では私も失礼して、水を一杯…」
「………」
「(…これで終わりだ。)」
「介入する」・・・と言えば、カスティーリアの貴族達から反発をうけることは間違いない。下手をしたらエンリケ王の支持も失う。最悪、カスティーリアを反ポルトガルで一枚岩にしてしまいかねない。

「介入しない」…とも言えない。教皇庁主催の法廷でそんな事を言ってしまったら、ここでの宣言を盾にされてカスティーリアの介入が著しく難しくなってしまう。

「黙秘」…は論外。自らの野心を言わないことで暴露してしまう上に信用まで失う。そうなれば、カスティーリアの貴族達に懐疑心を植えつけるばかりか、協力を依頼したエンリケ王の権威までも傷つけることになる。


どの選択肢も駄目となれば残る手段は、ただ一つ…
「(チェックメイトだ!)」
「…裁判長。」
「…!」
「何でしょうか?」
「余は、この件に関して、身の潔白を証明する証拠がある。だが、すぐにというわけにはいかんのだ。一時休廷を申し入れたい。」
「(…一時休廷?)」
「一時休廷ですか?それは構いません。ですが、十五分ほどしかとれませんが…よろしいですか?」
「十五分か…よかろう。善処しよう。間に合うかどうかは分からぬが…」
「弁護側もよろしいですね?」
「…構いません。」
「では、アルフォンゾ陛下の要請を受け入れ、十五分間の休廷とします。」

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この物語はフィクションです。
実際の組織及び人物、歴史、事件などにはいっさい関係ありません。

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