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HP
-中世時代で大逆転-


「金色の担い手編」

-インターローグ3-















HP

西暦14××年×月×日(×)第×××号裁判記録
法務部第三指定封書×××号-××
法王庁機密文書指定××号
「イザベラ王女及びエンリケ王子婚姻取消し裁判」


ざわ…ざわ…ざわ…
「はぁ…疲れた。」
「見事だ。」
「ア…アルフォンゾ陛下。」
「よもや、あの局面から打開するとはな。」
「恐縮です。」
「ふふふ…気に入った。また後で合おう。」
「………」
「わーい!(ガバ
「はぅ!?な、なんだ。急に飛びついてきて…」
「いやぁ〜嬉しくなっちゃって。でも凄いね、よくあそこから逆転できたね。私も保護者として鼻が高いよ!」
「そ、そう(…疲れて、つっこむきにもなれない)」
「やれやれ、ハラハラしどうしだな。」
「フェルナンド殿下…もうしわけありません。不細工な所をお見せしてしまって…」
「いや…そうでもなかったさ。」
「そうだよ!ブサイクどころか格好良かったよ!」
「ところで、今、アルフォンゾのヤツに声をかけられていたな。なに言ってきたんだ?」
「…え?…ああ、アルフォンゾ陛下からお褒めの言葉を頂きました。」
「褒め言葉?あの野郎が?」
「…後は…気に入ったとか…言っていましたが。」
「…ふぅ〜ん。」
「む〜、なんか余裕だね。」
「まぁ、ここで立ち話も何だから、控え室へ行こう。」

大聖堂・控えの間


ザワ…ザワ…ザワ…
「…そういえば、イザベラ王女のお姿がありませんが。」
「イザベラは野暮用だ。すぐ戻ってくる。」
「そうですか。」
「愛しい人に合えないこの辛さ…これが恋の奴隷というヤツかな、相棒。」
「そ、そうかもしれませんね。」
「…奴隷と女王さま(ボソ」
「ん?何か言ったかいお嬢ちゃん。」
「な、何にも言ってないよ!」
「(…やれやれ)
ところで、これからアルフォンゾ陛下はどうされるおつもりなんでしょう? 」
「何か切り札があるような言い方だったけど…なんなんだろうね?」
「切り札…ねぇ…」
「王子様ならどうします?」
「俺様か?そうだな、俺様だったら騎士団をつっこませるな。」
「ええ!?そんなの駄目だよ!」
「負けそうになったら、盤をひっくり返す!これぞ王道だな、うん。」
「そんなの、全然王道じゃないよ!」
「ほ、他には何かありませんか?」
「…そうだな…残るは、証文を書いて貰うって手もあるな。」
「証文って、借金をするときに書くやつ?」
「そう、その証文だ。まぁ、この場合は、借金の額じゃなく「介入しても良い」って一文だろうがな。」
介入の許可!?そ、そのようなものを書いてくれるんですか!」
「そりゃ、普通は書かないだろうがな、なんといっても追い詰められているし、こういっちゃ何だが介入問題を片付ければ後は特に…」
「………」
「…殿下?」
「しまった!謀られた!」
「え?何?何!?」
「一杯喰わされた!あの野郎…そういうことか!」
「そういうこと…とは?」
「アルフォンゾのヤツが出てきた理由だ!あの野郎、確実に実を取る算段でいやがったんだ!」
「お、落ち着いて!怖いよ!」
「ごめんよ、お嬢ちゃん…しかし、クソっ!」
「どういうことですか?」
「…つまり、こういうことさ。アルフォンゾの奴直接出てきたのはだ、裁判に勝てばもちろん良いが、追い詰められても、それを理由にエンリケ王から介入の許可を得られると踏んだからだ。」
「まさか!?」
「え?え?追い詰められても?介入の許可を得る?どういうこと?」
「…教えてあげようか?」
「………」
「………」
「…うう、お願いします(短い天下だったなぁ)」
「つまり、こういうことだよ。介入を認める証文を得れば、これを盾に幾らでもカスティーリアに介入できるようになる。そう、例えエンリケ王から援軍要請が無くとも…」
「そ、それって大変なことだよ!」
「そうさ。裁判に負けてもお釣りがくるぐらいの特権だ!証文を振りかざして、堂々と軍隊をカスティーリア領内に進むめることができるようになる。エンリケ王との打ち合わせも無しにだ!もう誰も奴を止めることが出来なくなる!」
「で、で、で、でも、そんなことぐらいエンリケ王だって分かっているよね!?そうなれば証文を書くなんてことは…」
「それがアルフォンゾ陛下の上手い所だね…」
「良いかいお嬢ちゃん。あの偉大なるアルフォンゾ大王様が自らだよ、エンリケ王の仇をうつために法廷に告発人として出廷した。ところが逆に追い詰められてしまった。アルフォンゾ王は困った顔でエンリケ王に頼むだろう「裁判に勝つために一筆書いてくれ」ってな。エンリケ王は断れると思うか?俺だって無理だ!」
「な、何で無理なの!」
「断るなんてことをしたら、アルフォンゾ陛下の信頼を失うどころの騒ぎじゃないからだよ。同盟者すらフォローしないエンリケ王には誰にもついていかなくなる。政治生命の終わりさ。」
「あ、あう。つまり、これってもしかして…」
「そうさ。言いたかないが俺達は既に…いやアルフォンゾの奴が法廷に立ったその時点で…」
「負けている!」
「ガーン!
じゃあ、じゃあ!この後、どうするの!」
「…どうしようも無い…法廷内でなら、弁論でなら何とかなるかもしれないけど…法廷の外側からの攻撃となると…弁護士じゃどうにもならないよ。」
「そ、そんな!じゃあさ、じゃあさ、エンリケ王に「アルフォンゾ陛下は乗っ取りを企んでますよ!」って教えてあげたら…」
「俺達の言う事をエンリケ王が素直に聞くと思うかい?それに、まあ、いくらエンリケ王がボンクラでも、アルフォンゾの奴がカスティーリアに触手を伸ばしていることぐらい先刻承知だろうさ。」
「エンリケ王も、アルフォンゾ陛下を利用しようと考えているハズですしね…」
「そうだな。ちょっと考えりゃ、得られる証文の内容がどれでも効果が発揮できることに気がつくだろうしな。」
「え、得られる段階ってどういうこと?」
「アルフォンゾ陛下にとって一番良いのはもちろん「王位継承問題に関して、アルフォンゾ王の介入を認める」という一文だろうね。 」
「だが、「王位継承問題に関して、エンリケ王はアルフォンゾ王の介入を要請する」あるいは、「ファナ王女支援のタメの介入を要請する」でも良いんだ。そうなれば、こちらが主張した介入問題を打破できる。」
「えっ!?じゃあ、エンリケ王の気持ちがどうであれ、アルフォンゾ陛下は無敵の証文か、裁判勝利の証文か、どちらかを手に入れられるわけなの!?だったら、もう本当にどうにもならないよ!」
「だから言ったじゃないか…僕らはすでに
負けている!」
「ガーン!ガーン!
…ば、化け物だ。あの王様、人間じゃないよ!」
「…そうだね。只者じゃないよ。」
「………」
「…ん?どうしたんだい。」
「…いや、思わず負けを認めてしまうほどの絶体絶命の大ピンチなのに、いやに落ち着いているなぁ〜と思って。」
「…ちょっと引っかかることがあってね。」
「引っかかること?」
「…アルフォンゾ陛下は、休廷直前に「間に合うかどうかは分からぬが」と言っていたんだよ…こんなことは勝利を確信しているんなら言う必要は無い。思わず漏らしたんなら尚更だ。…と言う事は?」
「証文を書くのに時間がかかるってことかな?」
「…そう、そうなんだ。問題は何で時間がかかるのか…なんだよね。そこがさっきから引っかかって…」
「…何にしても証文作成を阻止するのは変わりはないさ…こうなったら最後の手段を取るしかなさそうだな。」
「最後の手段?しかし、王子の部隊は全てアルフォンゾ陛下の軍の監視下に…」
「外にいるのはな…」
「え?じゃあ、法廷内にもいるんですか。」
「10人ばかり傍聴人に紛れ込ませている。軽装だが、剣の達人ばかりだ。」
「し、しかし!」
「今、自分で言っただろう。「法廷の外」での話しだ。これについては口を出さないで貰おうか。」
「で、でも、失敗したら!」
「お嬢ちゃん。人間にはね。やらなきゃあ、いけない時もあるんだよ。」
「死んじゃったらイザベラ王女が悲しむよ!」
「まぁ安心しな、俺様にも考えが…」
「あら、あら、そんなにイチャついて、やけますわ(サク」
「…サク?」
「…う、うわぁ!血が!?」
「う、腕にナイフが刺さっているよ!」
「これも愛情の裏返し、可愛いもんですわ。プリティですわ。」
「で、で、で、でも、腕から血が出ているよ!」
「あら、本当。吸って、舐めて、癒してさし上げますわ(ちゅぱ、ちゅぱ」
「あ、ありがとう。」
「貴方の血肉は全て私の物。浮気なんかしたら、姦通罪で即・処刑!ですわ。ふふふ。」
「う、うん(ゴク」
「こ…怖いよぉ…」
「そ、そうだね(深い愛情も良し悪しだな)」
「そう、そう。それで先ほどのお話です。弁護士さんは流石に察しが良いです。フェルナンド、貴方が出る必要は全く無くなりましたわ。」
「どういうことだい、ハニィ?」
「世の中計算どおりにはいかないもの。エンリケ王は、ただいま面会謝絶状態らしいですわ。」
「本当ですか!」
「ええ。私を支持してくださる有力貴族の方からの情報です。まず、間違いありませんわ。」
「なんだエンリケ王の奴、仮病じゃなくて本気で倒れてやがったのか。やれやれ、最悪のパターンは消えたってわけか…いや、自分で招いたのなら、策士策に溺れるといったところかな。はははは。」
「これも弁護士さんが、いっぱい、いっぱい、エンリケ王をイジメてくれたおかげですわ。」
「…ははは(喜んで良いのだろうか?)」
「でも、良かったね!これで一安心だ。」
「…いや、そうとも言えないよ。さっきも言ったけど、休廷直後にアルフォンゾ陛下は「間に合うかどうかは分からぬが」と言っていた。 つまり、エンリケ王が面会できるまで回復していない可能性も考えていたはずだ。」
「…とすると、奴の目論みも分かってくるな。」
「それって、つまり…エンリケ王が回復するまで待つってことですか?」
「…翌朝まで休廷か、2.3日の延期か、まぁ、今日の公判を遅らせることを重点に置いて来る事はまちがいないな。何せ介入可能の証文さえ取っちまえば、負けようが何しようが、どうでも良くなる。」
「…いえ、殿下も先ほど言われましたが、証文を受取ってしまうと、裁判そのものに負ける可能性があります。カスティーリア介入という切り札を無くしてしまうと、相手を攻める手は、もう残っていません。」
「…だとすると、エンリケ王が面会謝絶にあるこの公判で、何としても終わらせたいですわね。」
「でも、どうやって延期させるつもりなんだろうね?正直に一日待ってくれ!って言うのかな。」
「休廷を一回とっちまったからな。もう一日待ってくれ、と言った所で理由がない限り受入れられんだろう。」
「じゃあ、エンリケ王に許可を貰う約束をしていたって言えば…」
「………」
「………」
「な、なに、その目!」
「…そんなことをしたらエンリケ王は怒るよ。」
「…さすがに事前に相談せず、そんなことを言ったら「そんな約束した覚えは無い!」とキレるだろうぜ。」
「…うう、馬鹿を見るような目で見られた。」
「可哀想、可哀想ですわ(なでなで」
「そうだ。だったら、いきなり倒れるっていうのはどう!」
「病弱なエンリケ王ならともかく、強靭さを売りにしているアルフォンゾ王が急病だなんて誰も信じないぞ。そもそも奴のプライドが許さないさ。」
「なら、いきなりグラナダが攻めてきたとか嘘をついて帰るとか。」
「それも多分ありませんわ。虚報だとバレた時が大変です。嘘をついていたのなら卑怯者、騙されたと言えばマヌケ。どちらの称号もアルフォンゾ王のプライドが許しませんわ。」
「う〜ん。プライドが邪魔して駄目なんだね。」
「…いや、例えプライドを犠牲にして、倒れるなり、虚報で帰ろうとしても、僕たちが阻止するさ。」
「…へ?」
「その通りだ。今回の裁判で何としても決着をつけなきゃならねえ。」
「そうですわ。あらゆる手段を用いて、アルフォンゾ王の延長要請や途中退場を食止めます!」
「…はぁ。」
「…しかし、そのこともアルフォンゾ陛下は分かっておられるでしょうね。」
「うむ。あんにゃろうのことだ。俺達が阻止するのを予測ぐらいしているだろうな。」
「だとすると、アルフォンゾ陛下の策略は決まってきますわね。」
「…そうですね。つまり、「我々が阻止できない理由」「エンリケ王が回復するまで法廷を延期させる」という手段を繰り出してくるはずです。」
「そんな都合の良い方法が、あるのかな?」
「普通に考えりゃあ、ねぇだろうが…なにせアルフォンゾの奴だからな。とんでもない行動に出るかも知れねぇ。」
「とんでもないというと?」
「そうだな…」
「…まさか、な。」
「…?」
「予想のできない方法・・・あっ!そうだ、こういうのはどう!?」
「何ですか?」
「エンリケ王とアルフォンゾ陛下が結婚する!」
「………」
「………」
「………」
「どう?予想外の行動でしょ?」
「…た、確かに予想外の行動だな。」
「…なるほど、面白い方法だね。教会が同性愛を認めていればだけど。」
「い、いや、駄目なのは知ってたよ?でも、ほら、予想外の作戦を…ね?」
「大丈夫ですわ。女の子は、ちょっとぐらいおバカなぐらいが可愛いですから(なでなで」
「うう…今まで築きあげてきた知的なイメージが…」
「何でも言えばいいってもんじゃないよ。」
「ガーン!…ひ、ひどい!」
「大丈夫、知識と思考力は別もんだってことぐらい分かっているさ。」
「と、遠まわしにバカだって言われた!?」
「頭の良し悪しは可愛らしさには関係ありませんわ。ウサギのようでプリティですわよ。」
「ついに小動物扱い!?」
「(…相変わらず忙しいコだな)」
「うう、イジケてやるぅ〜、皆を呪ってやるぅ〜」
「失礼します。弁護人、お呼びですよ。」
「呼び出し…僕をですか?(←かな?)」
「…モテモテだね。さっさと行って来い、宿六!」
「や、宿六って…一緒に行かないの?」
「私は今、とぉ〜ても、イジケているの!ほらほら、裁判の内容を聞きたがっていたんだから、早くいきなよ!」
「…やれやれ。」
「まぁ、まぁ、二人とも行っちまうと俺らも不安だし、お嬢ちゃんぐらい残ってもらわないと、な。」
「…私と二人っきりだと不満ですか?(ギロリ」
「そ、そういうワケじゃないぜハニィ!」
「分かりました。では失礼して…(仕方ないな)」
「………」


「失礼します。」
「ボンジョルノ!」
「…え。僕を呼んだのはアーサーさんだったんですか?」
「これは、これは、ご期待に添えなかったようで申し訳ありません。」
「い、いえ。」
「いや、しかし、素晴らしい弁護でしたな。あれほどの腕をお持ちとは大したものです。敵ながら天晴れと、主様も大変喜んでおりました。」
「いや、それほどでも…」
「それで、つきましては、これはお近づきの印にと…ほんの金貨5000程度ですが。」
「こ、これは一体何ですか!いわれのないお金は受取れません!」
「あ、これは失礼しました。美術品の方がよろしかったですか?」
「そう言う事をいっているんじゃありません!」
「これは、これは、さすがはユダヤ人。交渉がお得意でいらっしゃる。」
「(…ユダヤ人?)」
「単刀直入に申しましょう。南部副総監の件、あれは冗談ではありません。」
「…何ですって?」
「公判中にも主様が言われましたが、我がポルトガルは外洋を目指しており、その為の艦隊創設に力を入れております。」
「………」
「既に先代のエンリケ航海王子の時代に、アフリカ西部の探索に成功し、今やアフリカ周回も夢では無くなっている昨今…我国に必要なのは、現地の人間を制する強力なネゴシエーター(交渉人)なのです!」
「…つまり、僕に植民地支配を手伝えと?」
「手伝い?とんでもございません。働いて頂きたいのですよ…植民地支配の支柱として。」
「………」
「主様は、もし貴方様が馳せ参じるのであるならば、騎士にとり立てるばかりか、爵位を叙しても良いとも申しておりました。」
「………」
「さらに本国への納入させ正しく行えば、多少の不正にも目を瞑ってもよろしいとも、主様は言われております。現地人を奴隷にするもよし、当地で荘園を開くもよし、なんなら鉱山の一つ二つ、統治者権限で購入されても結構だとも。」
「………」
「貴方様がどれほどの待遇で、イザベラ王女とフェルナンド王子に雇われたかは知りませんが、これ以上のものではありますまい。」
「…そういうことですか。つまり僕に裏切れと言うのですね?」
「ほほほ、聞こえが悪いですな。我がポルトガルに来て欲しい。と、言っているのですよ。」
「…同じことです。僕から話すことはありません。
では、失礼します。」
「あ…っと、これはこれは…ほほほ、参りましたな。手付金が足りませんでしたかな?」
「…貴方がたは何か、誤解しているようですね。」
「何をですかな?」
「この時代は、貴方がたのものだ。だから、貴方がたが何をしようと僕にはとやかく言う権利は無い。だからといって、貴方がたの手伝いをする気は毛頭ない。」
「言っている意味が良く分かりませんが?」
「当地の人の権利を奪い、奴隷にし、蹂躙する…そんな植民地支配の手助けはしない。と言っているんです。」
「また、また…地中海を支配したアラゴンや、レコンキスタを行ったカスティーリアが、ポルトガルと違うとでも言うつもりですか?」
「これも勘違いされているようですね。僕は国家でも、王家のためでもなく、お二人の幸せのために弁護をしているんです。」
「立派!これは立派です!いや、身内しか大事にしないユダヤ人とは思えない!契約厳守、弁護士の鏡ですな!」
「………」
「いや、もう建前はよろしいでしょう。我々に何を望まれるのですか?さすがに副総監以上となると、私の権限ではどうにもなりませんな。そうだ、主様に合われますか?直接交渉されれば…」
「…どけ、と僕は言っているんです。」
「………」
「………」
「…本気で主様に歯向かうつもりですか?」
「僕は弁護士です。それ以上でも、それ以下でもありません。」
「なるほど、いや、申し訳ありません。私は考え違いをしていたようですね。ほほほ…」
「ゲヴォ!?」
「交渉は終わりにして、命令にしましょう…
  主様に従え、さもなくば殺す。」
「…断る!」
「ガヴァ!」
「自分は殺されないと思っておられるのですか?それは勘違いというもの。貴方が死ねば、裁判は犯人探しのために休廷となる。それは主様の希望に沿うこと。お分かりですか?」
「…クっ!」
「もちろん、私が捕まることもありません。主様の政治力さえあれば事件をウヤムヤにすることなど朝飯前というものです。…それよりも証拠を残すヘマなどしませんがね。」
「ドヴァ!」
「つまり、貴方が死ねば、イザベラ、フェルナンド両殿下は貴方と言う有用な弁護士を失うばかりか、公判休廷により、我々は証拠固めの時間を頂ける…我々にしてみれば至れり尽くせりというものです。」
「………」
「まさに無駄死の見本!悲しくなってはきませんか?」
「………」
「…やれ、やれ、強情な方だ。嫌いじゃありませんよ。そういう方は。」
「グァ!」
「…時と場合によりますがね。」
「…(く、くそ)」
「貴方の横にいつもいる、あのお団子少女…可愛いですな。」
「…!」
「貴方、あの少女のためなら全世界を敵に回せるそうで…いや、素晴らしい。友愛とは、かくありたいものですな。」
「…盗聴、してたのか。」
「どうだって良いじゃありませんか。そんなことは。」
「ヴぁら!」
「あの娘を、ここに連れてこなかった用心深さはさすがですが、貴方が死ねば同じこと…分かりますかな?」
「…彼女に、手を出すな!」
「グガァ!」
「小柄な東洋の少女は、その道の方々には大変ご好評なようで…ですが、私としては、もっと実用的なものとして扱いたいですな…例えば、そう…」
「………」
「人間燭台とか。」
「げヴぅ!」
「苦痛なら爪を、心理的な衝撃を加えるのならば目を、精神力を消耗させるのならば睡眠を…それぞれ奪えば良い。分かりますかな、弁護人?」
「…止め…ろ。」
「良いですよ。止めましょう。」
「………」
「一言了承して下されば、あっという間に地獄の責め苦から、天界貴族に早代わり!いや羨ましい、妬ましい。」
「………」
「このごに及んで、考えるまでもありますまい。イザベラ王女やフェルナンド王子とも命を捨てるほどの間柄でも無いのでしょう?ささ、どうぞ、どうぞ。一言、私にお伝え下さい…さすれば富と栄誉は貴方のものに…」
「………」
「………」
「僕は…弁護士だ…」
「ほぉ、それで?」
「…弁護士は、人の想いを捨てない。」
「だから?」
「…貴方の言う事には従えない。」
「………」
「………」
「ほ、ほ〜ほほほほほほっほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ」
「………………………………………」
「ほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ」
「…………………………」
「ほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ」
「……………」
「死ね」
「…………………………………………


……………………

…………








………………………………………………………」


「(…あれ?生きてる?)」
「…あ、あはは…間に合った…ね。」
「…(きゅ〜」
「君は!今までどこにいたんだい?探したんだよ。」
「…ずっと後に…姿を消して隠れてた…」
「…後って僕の?何で隠れてたの?」
「…ここ聖職者ばかりで…嫌い…」
「(何をトンチンカンな質問をしているんだ僕は?)
あ、ああ、そうだよね。とりあえず助かったよ。ありがとう。」
「…褒められると…恥ずかしい…でも、ハッシの人、怖かったら嬉しい。」
「…魔法使いでも怖かったのか…ん?ハッシって何?」
「…アラブの殺し屋が使う、恐怖を紛らわせる薬。私、嫌い。」
「…アラブの…殺し屋?」
ドガッ!
「大丈夫ですか!」
「…え?」
「おい!生きてるか!こいつは…やはり、な。直接行動に出やがったか。あの野郎!」
「…殿下?」
「おい!あいつをふんじばれ!」
「はい!」
「…僕が襲われるのを予期していたんですか。」
「言ったろ?俺なら騎士団を突っ込ませて、盤を引っくり返すって。」
「………」
「少し遅いようだから、警備の連中を引き連れてきたが…まさか武芸百般のアーサーのヤツを倒しているなんてな。」
「…ええ、それは彼女が…あれ?」
「どうした?」
「…い、いえ(また姿を隠したのか)」
「しかし、こいつぁ、良いもんが手に入ったな。こいつでアルフォンゾのヤツを追い詰められるんじゃねぇか?」
「…殿下。殿下はハッシというのをご存知ですか?アラブの殺し屋が用いる薬らしいのですが」
「ハッシ?いや知らねぇな?」
「ハッシ…もしかして、ハシーシュのことではないですか?」
「知っているのかお前?」
「はい。前に十字軍活動でキプロスへ行ったことがありますが、そのさいに大麻…ハシーシュを用いて要人を暗殺するイスラム教一派があると聞いたことがあります。」
「あ!ああ、思い出した。あれか、アサシン教団の奴等か!大麻で恐怖を紛らわせて暗殺を行うって…まさかアーサーのヤツがアサシンなのか!?おい、調べてみろ!」
「はっ!…これは…イスラム教徒の武器に間違いありません!」
「やったな!おい!アルフォンゾのヤツがイスラム教徒と手を組んでいたことが証明できれば、確実に裁判に勝てるぞ!」
「………」
「いや、それどころかカスティーリアの貴族達の支持も得られる!完全勝利だ!はは!ざまあみろ!」
「…(何だろう。この嫌な感じは…)」
「すぐに裁判長と連絡をつけろ!あと警邏だ!司祭の方々と…ああ、アレだ!アレ!異端査問委員会の連中もだ!」
「…(ハッシ…そして武器…確かにアサシンとしての証拠としては…悪くないものだ。しかし、なぜか…気に入らない。何だろう?)」
「はっ!直ちに連絡をつけます!」
「…(引っかかる…何か、そう。とても重要なことを見落としているような気が…)」
「おい、どうした相棒?」
「…え?あ、いや何でもありません。」
「行くぞ!これでアルフォンゾの野郎も終わりだ。」
「…ええ、そうですね。」

公判3:逆転の王道→
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この物語はフィクションです。
実際の組織及び人物、歴史、事件などにはいっさい関係ありません。

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